―幕間― 毒島花恋の放課後

「ごめん! 先輩とは付き合えないっ」

「そ、そんな……」


 放課後の校舎裏。

 花恋かれんは告白して来た先輩の男子生徒を一刀両断にしていた。

 がくりと膝を折る彼を見ると少しかわいそうな気もするけれど、これも仕方のないことだ。


 それに漫画やドラマの影響で告白=校舎裏のイメージがあるのだろうが、現実の校舎裏はジメジメしていてあまり居心地の良い場所ではない。


 花恋は「それじゃね」と先輩に言って、さっさとその場を退散した。

 校門の前まで行くと、待たせていた友人たちがこちらに向かって手を振っていた。


「遅いよ花恋―」

「ごめーん。先輩の告白思ったより長くてさー」


 軽く謝って花恋は女子一行たちと学校の敷地を出た。


 一年でも可愛いと評判の生徒たちが集まるグループだが、その中でも花恋は別格の華やかさを誇る。

 明るい色の髪を風になびかせ、限界ギリギリまで詰めたスカートを揺らすその姿には、今日も多く男たちの視線が集まっていた。


「でも花恋ってほんと誰の告白も断るよね」

米村よねむら先輩ってバスケ部のエースじゃん。もったいな~」

「私だったら確実にオーケーしてるわー」


 彼女らの僻みを花恋は、


「あはは、でもあの人自慢多くて一緒にいると疲れるんだよねー」


と適当に流す。


 花恋は自分の容姿に絶対の自信を持っている。だからこそ付き合う男は自分で見極めたかったし、妥協も許したくはなかった。

 ――それに花恋には大いなる野望があって、


(絶対に良い男見つけて結婚するんだ。そんでこの苗字ともおさらばしてやる!)


 昔からこの「毒島ぶすじま」という苗字のせいで散々いじられてきた。

 メイクやオシャレや美容を覚えた今じゃからかってくる人もいない。だが、小さい頃は本当に心無い言葉を幾度も投げかけられた。


 だからこそ、花恋は恋愛を考える際常に結婚を意識する。

 高校生の恋愛なんて遊びのようなもの――と捉える友人は多くいるけれど、花恋はそう思わない。


 可能であれば高校時代に付き合った彼氏と結婚まで行きつきたい。「この人だ!」と思える人物と高校で出会ってそのまま結婚なんて素敵じゃないか。


 ただそのせいで、将来性やら家柄やら性格やらといろいろ高い条件があってなかなか恋人が見つからないわけなのだけれど……。

 


     *



 学校を出た花恋たち一行は、駅に併設されたショッピングモールを訪れていた。


「うわ、このネックレス超可愛くない?」

「わかるー! ウチもそれ良いかもって思ってたんだよね」


 そんな風に姦しく話をしながら友人たちと共にアクセサリーショップを物色していた時だ。


(ん? あれって……)


 花恋は棚の隙間から覗いた男の顔を見て、ふと眉を上げた。


 背は高いがナヨっとした感じの男子高校生。

よく見ればそれは、クラスメイトの水沢善みずさわぜんだ。


 どうやら彼は向かいにある水着売り場を物色しているようだった。大人しい印象の彼がそんな場所にいること自体意外だったが、それ以上に驚いたのは、


「善、これとかどうかな?」

「お前その金ピカ本気で着るつもりかよ……」

「あははは! 冗談だって!」


 彼が同じ高校の女子と一緒にいたことだ。


(うそーっ、善くん彼女いたんだ!)


 仲が良さそうに買い物をしているところから察するに二人は付き合っているのだろう。

 相手はボーイッシュな見た目の、活発そうな女の子だ。飾り気がなく素朴な感じだが笑った顔は無邪気でとても可愛い。


 クラスじゃあまり喋っているところを見たことがない善だが……なかなか隅に置けないな、と花恋は口を尖らせる。


(別に見下してるとかそういうんじゃないけどさー……善くんみたいな控えめの子にも恋人がいるのにわたしは未だフリーって。なんつーか、モヤるなぁ……)


 いっそのこと今度告白してきた適当な男と付き合ってみようか。

 いやしかしそれでは自分の信念が……。


 なんて頭を抱え、何やらワイワイと騒いでいる善たちを見つめながら、


(はぁ~あ……どっかに良い男転がってないかなぁ……)


 花恋は重いため息を吐くのだった。


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