第27話 別れ

 私の方にカラダを向け、


「たまに海に行くから。顔を見せておくれ」


 おばあちゃんは声を潤ませながら言った。


 笑っとっても本心は誤魔化されへんのやなあ。


 そういう素直なとこ、大好きやで。


「ちょっと待っとって」


 急いで居間に戻り、封筒を手に再び仏間に入る。


「これ。大したことは書いてないけど……読んで」


 精一杯気持ちを込めて書いた手紙。


 何枚も紙を無駄にしてもた。


 後悔はしてない。


 感謝を伝えるのに必要やったんや。


「ありがとうね」


 大事そうに手紙を受け取ると、おばあちゃんは仏壇に供えて手を合わせた。


 そして振り返り、


「学校のことも、家族のことも全部私に任せておきなさい。なんとかするから」


 もう笑っとらへんかった。


 泣いとった。


 私もおばあちゃんも。


「ありがとう」


 細くなってしまったおばあちゃんのカラダを優しく抱きしめる。


 小っちゃい頃以来やわ。


 なぁ、おばあちゃん。


 さっき「顔を見せて」って言ったよな。


 ごめん。


 なんとなくやけど、もう二度と会われへんような気がするわ。


「ほな、行っておいで」


「おん……カラダに気をつけてね」


 静かに頷いて、おばあちゃんは玄関まで見送ってくれた。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 先ほどよりも明るくなりつつある空。


 急がんと。


 祖母の温もりと最後の笑顔を心に刻みつけ、海に向かって全力で走った。

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