第26話 最後の朝食

 翌朝。


 まだ太陽が顔を出す前。


 汚すのが嫌であんまり着とらんかった、海咲とお揃いのワンピースを着て階段を降りる。


「おはよう」


「ふわぁ……おはよ」


「ふふふ、眠そうね」


「おん」


 顔を洗ったとて眠いもんは眠い。


 こんな時間に起きたこと、滅多にないもん。


 目を擦りながら台所に立つ。


 具材を切り、お味噌汁を作った。


 炊き立てのご飯でおにぎりを作った。


 ちょっぴり……ごめん、嘘。


 結構焦げてもうたけど、卵焼きを教えてもらいながら作った。


 作りながらようけ話した。


 小さい頃にこの家で祖父母に遊んでもらったこと。


 父親と母親が離婚したこと。


 辛かったこと。


 友だちができなかったこと。


 思い出せる限りぜーんぶ話した。


 おばあちゃんも沢山話してくれたわ。


 鬼ごっこが大好きやったこと。


 けん玉が苦手やったこと。


 小学校に入ってから人見知りが加速していったこと。


 祖父母の家から帰るとき、毎回号泣しとったこと。


 ペチャクチャ喋りながら料理するのってホンマはようないんやろうけど、今日ぐらいはええやろ。


 どうせ私らが食べるもんなんやし。


 最後の、二人での食事なんやもん。


「はい」


「おん」


 おばあちゃんから出来立ての料理を受け取り、机に並べる。


「食べよか」


 手を合わせ、


「「いただきます」」


 命に感謝。


 熱々のもんは食べられへんようになってもうたから、ふうふう息を吹きかけて食べる。


「お味噌汁、氷いれる?」


「味薄なるやろ」


 ありがた迷惑な提案にツッコミいれてもうたわ。


 お味噌汁に氷て。


 聞いたことないで。


「美味しく作れたわね」


「おん」


 半分以上おばあちゃんのおかげやけどな。


「いいお嫁さんになれるわ」


「……」


 うーん。


 海の中で調理することはないと思うで。


 知らんけど。


「「ごちそうさまでした」」


 食べ終わったらまた台所に二人並んで、食器を洗っていく。


 ふと窓の外を見る。


「ほんのり明るくなってきとうね」


「そうやな」


 もうそろそろ行かなアカン。


「最後におじいちゃんに挨拶していきなさい」


「わかった」


 洗い物を全て片付けている暇はない。


 おばあちゃんの後に続いて仏間に入る。


 正座をし、手を合わせ目を閉じた。


 おじいちゃん、ご先祖様。


 短い間でしたがお世話になりました。


 父親のことはどうでもいいから、どうかおばあちゃんのことをよろしくお願いします。


「さくら」


 声をかけられて目を開ける。


 おばあちゃんは柔らかく、温かい笑みを浮かべとった。

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