第25話 おばあちゃんの提案

 結局私は机を拭きながら、海での出来事を話した。


 正確に言えば、事情聴取されたというか聞き出されたというかなんというか。


 おばあちゃんはずっと、


「あらま」


「いいわねえ」


「青春ねえ」


「素敵ねえ」


「LOVEね」


 と相づちを打っていた。


 終始楽しそうやったわ。


 孫娘の恋バナで幸せになってもらえてなによりです。


「さてさて、もっと話していたいけれど……明日早いのよね」


「うん」


「じゃあもう寝ることにするわ」


「そっか、おやす――」


「それで」


 話ぶった切られた。


 どないしてん。


「一緒に朝ごはんを作りましょう」


「え」


 まさかの提案。


「最後だから、ね?」


「……うん」


 いっつも笑顔のおばあちゃんの両目に涙の膜が張っているのを見逃すほど、私はアホやない。


 私の返事に頷いて、


「おやすみ」


「おやすみなさい」


 おばあちゃんは居間を出て行った。


「未練がないように、かぁ」


 難しいな。


 明日の朝やもん。


 できること限られとるやん。


 あっ、短い間やったけどお世話になったし感謝の手紙を書こう。


 後は……寝るか。


 あんまり夜更かしして海咲との待ち合わせに遅刻したら。


 土下座案件や。


 それで許してもらえたらええけどな。


「よしっ、お風呂入ってこよ」


 シャワーを浴びながらでも考えることはできるしな。


 ここでボーっと考えるより効率的やろ。


 立ち上がり、


「毎日時間をかけて作ってくれたおばあちゃんの手料理、美味しかったなあ」


 居間を見渡す。


 私の私物はほぼ置いてへんけど、棚に飾られた写真立てには、父親、母親、おばあちゃん、おじいちゃん、私が映った写真が飾られている。


 一部を除いて、心の底から大切な家族。


 ズズっ。


「アカン。泣いてま……泣いてええか」


 明日笑って別れられるように。


 今のうちに泣いておくことにするわ。

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