第8幕 別れ
第24話 乙女なおばあちゃん
「あれ」
いつもはとっくに寝ているおばあちゃん。
電気が消えているはずなのに点いてとる。
ガラガラガラ。
相変わらず騒がしい引き戸やなあ。
この音を聞くのも、あと一回だけか。
「おかえり」
「おばあちゃん、起きとったん」
「そりゃねえ」
柔らかく笑うおばあちゃん。
眠いだけかもしれん。
欠伸しとるし。
「話を聞かせてちょうだい」
「うっ、うん。手ぇ洗ってくるわ」
あーわかったかもしれん。
おばあちゃんが夜更かししとったわけ。
恋バナ聞きたいんとちゃうか。
「お待たせ」
居間に行くと、コーヒーを淹れてくれていた。
「こんな時間からコーヒーて。寝れんくなるで」
私は別に夜に飲んだって爆睡できる人間なんやけどな。
「大丈夫よ。それに、人魚になったらコーヒーなんて滅多に飲めないじゃない」
「そういうことな。ありがとう」
ごめん、おばあちゃん。
嬉しいで。
嬉しいんやけど、多分飲めるわ。
やってさ、刺身食べるときに醤油を用意してくれる海咲やで?
多分「コーヒーが飲みたいんやけど」って言ったら調達してくれるやろ。
「で、どうなったの?」
「えっとなあ」
どっから話せばええんやろ。
てか、
「『人魚になったら』って言うたよな」
「えぇ。さくらのことだから、海咲ちゃんと一緒にいるために人間をやめるんじゃないかと思ったんだけど……違ったかしら」
「正解やわ」
「うふふ」
すげーなあ。
年の功か。
知らんけど。
取り敢えず、まず伝えなあかんことがあるよな。
「あんな、急な話なんやけど。明日の朝早うに、海に行くことになった」
「そう」
一言。
おばあちゃんはコーヒーを一口飲み、
「本当に急ね」
「おん……ごめんな」
今更ながらに思ったけど、流石に明日ってやっぱり急すぎよな。
「まぁ、善は急げっていうしね。海咲ちゃんの考えはわからないけれど、早い方がいいんでしょう」
「理解はやっ」
事態を受け入れるの早すぎん?
ホンマに凄いわ。
最初にこの家に預けられたときは父親を恨んだけど。
私を尊重してくれるおばあちゃんと、海咲に出会わせてくれたから感謝したるわ。
「そうそう」
「なに」
「海咲ちゃんと恋人になれたの?」
「ぶっ」
コーヒーを吹いてしもうた。
「ごめん」
慌ててティッシュで机を拭く。
「どうなの」
「急かさんといてーや」
まだ拭いとる最中やねん。
「拭きながらでも答えられるでしょ」
なんでちょっと楽しそうに聞くねん。
やっぱり恋バナ好きなんか。
JKかよ。
乙女かよ。
「どうなの」
「ちょっと待っといてって!」
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