終幕
終わりは始まり
これが、私が海咲と出逢い、人間をやめる決意をしたお話し。
これからが、私が人魚になっていく物語。
彼女の手を借りて海に浮かびながら、
「どうやって人魚になるん」
尋ねた。
もっと早うに聞いとけって言われるよな。
自分でもそう思うわ。
「私の言うことをよーく聞いてね」
「おん」
不思議や。
カラダは浮いとるし、口は半分以上海水に浸かっているいるのに。
全然苦しくない。
もう既に人間じゃないってことやな。
自然とその事実を受け入れとる自分がおるわ。
なんでやろ。
海咲が一緒やからやろな。
安心感。
この子とやったらなにがあっても大丈夫、っていう。
「目をつぶって、ゆっくり小魚を飲み込んでいくの。丸呑みして、海水と一緒に。苦しいけど絶対に吐き出さないで」
口になにかが押し当てられる。
「さぁ、早く」
魚を丸吞みて。
正気か……なんて、今更やな。
彼女の指示通りに魚を口に含む。
苦しい。
暴れ回る魚を飲み込むのは骨が折れるわ。
一匹目を飲み込むとすぐに次の魚。
二匹目が終わると三匹目。
四匹目。
五匹目。
最初の苦しみが気のせいやったんかと錯覚してしまうぐらい、苦しみはどんどん減少してった。
「さくちゃん」
大切な人の声。
いつの間にか閉じていた目を開ける。
目の前には沢山の魚の群れの中心にいる海咲。
「やっと、やっとだね」
あれ、声ってどうやって出すんやっけ。
「大丈夫。少しずつ慣れていくから」
彼女が私の手を引く。
「これからはずっと一緒だよ。なにがあっても」
頷けば、彼女は満足げに笑った。
今までで一番魅力的で、少し怖い笑み。
私が選んだ道は正解やったんやろうか。
わからん。
取り敢えず言えることは、もう後戻りはできへんってこと。
海咲は私をなにがあろうと手放そうとはせーへんってこと。
なんでそんなことがわかるんかって?
当たり前やん。
世界で一番大好きな人のことやで。
私は海咲で、海咲は私。
な、簡単なことやろ?
終わり
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