第20話 バレた 2

「さくら」


「うん」


「あんたはその人魚のことが好きなんか」


 私の表情からなにかを読み取ったんやろうな。


 悲しみが浮かんでいない顔。


「おらんくなってもうた子と人魚、どっちが大切なんや」


 答えなんて決まってる。


 過ごした時間の長さは関係ない。


 私は、


「あの子のことが好きや」


 山口さんよりも他の誰よりもずーっと。


「そうか」


 諦め、悲しみ。


 なんとも言えん表情が浮かんどった。


「あんたが毎晩海に行くんは知っとった」


「えっ、そうなん」


 マジか。


 バレてないと思とった。


「人の気配には敏感なんよ」


 帰って来てから初めておばあちゃんが少し笑った。


「夏休みの間、毎日海に行っとったんも知っとる」


 マジか、part 2。


 ごめん、ふざけとる場合やないな。


「なんで」


「この町は狭いんよ。村ほどではないけどね」


「あー」


 わかった。


「見られとったんか」


「そういうこと」


 互いに苦笑する。


 いいことも悪いこともすぐに広まるのが、狭い町・村の特徴。


「わざわざ言いに来てくれた人がおったんよ。『お孫さん、テトラポットから海に入ってますよ。危ないですよ』って」


「おーん」


 有難迷惑極まれり。


 放っておいてくれ。


「『刺身食べてましたよ』っていうことも教えてもらったのよ」


「おーん」


 マジかよ。


 いや、そりゃ目立つよな。


 防波堤で刺身食ってる女がいたら。


 しかも最近引っ越して来たばっかりの新参者が。


 嫌でも目につく。


「もう少し慎重に行動すべきだったわね」


「せやなあ」


 あーあ。


 ホンマにそうやわ。


 てか、


「おばあちゃん怒らへんの?」


 海に近づくな、という忠告をガン無視しとるし。


 怒られると思とった。


「内心では怒ってたよ。でも、もう手遅れやろ? 怒って疲れるんよ」


「……」


 見放されたってことなんかな。


 悪いのは私やけど、寂しいわ。


「勘違いしたらアカンで」


「え?」


「さくらは私にとって大切な孫。それは変わりない」


「おばあちゃん……」


 優しく微笑んでいる。


 いつも通りのおばあちゃん。


 その優しさが苦しい。


 裏切ってごめん。


 こそこそ外出してごめん。


 謝っても謝っても謝り足りひん。

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