第7幕 真実

第20話 バレた 1/2

「ただいま」


「おかえり」


 ガラガラガラと玄関の引き戸を開けながら挨拶をすると、いつもテレビの前にいる祖母が玄関に正座していた。


「えっ」


「さくら、話しがある。取り敢えず手を洗ってきなさい」


「うっ、うん」


 圧があった。


 正座でお出迎えって。


 生まれて初めて。


 あの落ち着いたトーンで話されるのは、この家に来て以来。


 なんやろ。


 私なんかしたやろか。


 成績のことか、授業態度のことか。


 わからん。


 悪いことはしとらへんけど、いい子ではないからなあ。


 怒られる要素はいくらでもある。


 手を洗い荷物を2階の自室に置いてきたら、おばあちゃんは居間で2人分のお茶を用意して待っとった。


「座り」


「うん」


 座布団に座り、おばあちゃんがお茶を飲んだから私も飲んだ。


「……」


 コトン、とおばあちゃんが静かに湯吞みを置いた。


「さくら」


「うん」


「あんたに見せたいもんがある」


 そう言っておばあちゃんが机の下から取り出したんは、小さな木箱。


「開けてみ」


 すっ、と木箱が目の前に差し出された。


 言われた通りに開けてみると、


「これ……」


 綺麗な鱗やった。


 なんべんも見たことのある鱗。


 海咲の下半身の一部を構成しているものとよー似とる。


「やっぱり見覚えがあるんやね」


 おばあちゃんはため息をついた。


「これはな、前話した人魚に連れて行かれた子が私にくれたもの。誰にも話さないことを約束にね。多分あの子も、誰にも話さないように言われたんだろうけど、話してしまった。その結果、彼女は……」


 声が潤んでいる。


 今でもそのお友だちは、おばあちゃんにとって大切な存在なんやろな。


 少し俯いていたおばあちゃんは顔をゆっくりと上げ、


「この間行方不明になった子、友だちなんやろ」


「うん」


「その子の話、人魚にしたんやろ


「うん」


「そうか」


 真剣な表情で言った。


 この町の人間で人魚を信じているのは老人ぐらい。


 まぁ、迷信というか言い伝え的な感じて受け止めてるんやろうけど、おばあちゃんは違う。


 人魚がおるって確信しとる。


 やから、勘づいとる。


 行方不明になった子は海に連れて行かれたって。


 私が原因やって。


「厄介なことになってしもうたなあ」


「うん」


 頷くことしかできへん。


 完全に私が悪いんやもん。


 それでも、私は海咲を恨んでない。


 憎んでない。


 だって私は……。


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