第18話 疑い

 山口が行方不明になった。


 彼女は母子家庭で、母親は水商売をしているから夜はいなかったらしい。


 朝方帰宅したところ彼女の姿が見えず。


 学校に行くにはあまりに早い時間。


 彼女は心当たりのある場所を捜しまわったらしいが、見つからず。


 警察も見つけられず。


 ただ目撃者が一人だけいた。


 夜中散歩をしていたおっさんが、少女が浜辺に座っていたと証言した。


 らしい。


 クラスメイトたちの噂話を繋ぎ合わせただけ。


 私はなんも知らん。


 空白の席を見つめながら考える。


 なんで夜中に海に行ったんや。


 人のこと言えんけど。


 唯一の、人間の友だちやった。


 漸くできた話の合う面白い子やったのに。


 私は唯一の友人を失った。


 彼女はもう戻ってこーへん。


 そんな予感がする。


 多分彼女は海に連れて行かれたんや。


 昨日は高波やったわけやない。


 でもな、そう思うんや。


 理由を説明せい、言われたらできへんねんけどな。


 だって海には人魚がおるから。


 海咲が。


 あの子と知り合って約1カ月ちょっと。


 短いけど、毎日うてたらわかんねん。


 あの子は嫉妬深い子や。


 自分のものが他人に取られそうになったら……。


 山口さんの話しとるとき、不貞腐れとったもん。


 気にせず話したけどな。


 それが悪かったんやとしたら。


 私が悪い。


 「まだ海咲がやったと決めるには早計か」


 ガヤガヤ五月蠅い教室で、私の呟きは誰の耳にも届かない。


 疑い。


 疑念。


「今日確かめてみるか」


 腕を枕にして寝る体制に入る。


 顔を伏せようとしたそのとき、


「ん?」


 海から遠く離れた学校で、波の音が聞こえたような気がした。

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