第15話 明るさは雲隠れ

 夜。


 学校が始まってから、私たちが会うのはおばあちゃんが眠ってからになった。


 21時すぎには寝てくれるし秒で爆睡してくれるから有り難い。


 たまに起きているときは、「勉強の息抜きしてくる」って外出しとる。


 若干嘘ついてごめんね。


 日中の晴天はストレスでしかないけど、夜は別。


 星々が綺麗に見えるから何度見たって感動を覚える。


「今日の魚も美味しいわ」


「よかった! さくちゃんが喜んでくれると私も嬉しいんだぁ」


 今日も今日とて魚を食べる姿をガン見されています。


 もう慣れたわ。


 悪い気はせんしね。


 美人さんに見つめられると。


 ちょっと童顔なとこが可愛いし。


「今日の学校はどうだった?」


「せやせや、その話せなあかんかったな」


 2学期が始まってから、海咲は私の学校での様子を聞きたがった。


 顔がタイプ、ちゅうとるぐらいやから私のこと好きなんやろうなあ。


 自意識過剰かもしれんけど、やからこそ学校での出来事を詳しく話してくれとせがんでくる。


 嬉しいと思ってまうんはなんでなんやろな。


 あんまり深く考えんようにするわ。


「今日も山口さんと海の話したねん」


「へー」


 初めて喋ったあの日から私たちはすぐに仲良くなった。


 お弁当を一緒に食べるようになったし、途中まで一緒に帰るようになった。


 休みの日に遊ぶことはないけど。


「どこの海が綺麗だとか、あの子えらい詳しいねん。写真も見せてもろた。いつか行ってみたいわ」


「……そうなんだ」


 拗ねたような顔。


 いつもの明るさと元気はどこへやら。


 無言。


 ちゃぷん、という水が跳ねる音だけが聞こえる。


「海咲、もしかして山口さんのこと嫌いなん?」


「……」


 頬っぺた膨らませて。


 確実に嫌いやな。


「ただの友だちやで」


「私と山口さん、どっちが好きなの」


 おっと。


 フィクションの世界でしか聞かへんと思っとった言葉。


 まさか現実で、しかも私が聞くことになるとは。


「そりゃ」


「そりゃ?」


「勿論、海咲やで」


 山口さんの顔も性格も好きやけど、海咲には敵わない。


「そっか」


 海咲は嬉しそうに微笑み、


「食べ終わったら泳ご」


「おん」


 再び私の食事をじーっと見つめ始めた。


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