第13話 遊び倒した夏休み幕間

 海咲は初めて魚をくれたあの日から、毎日魚をくれた。


 全部美味しかったわ。


 毎日毎日新鮮な魚を食べられるなんてな。


 しかもタダで。


 最高やろ。


 で、ご察しの通り私は毎日海咲と遊んだ。


 泳いで泳いで泳ぎまくった。


 おかげで肌は真っ黒。


 やって日焼け止め塗るんめんどいんやもん。


 塗ったところで、何時間も泳いどったら意味ないしな。


 ところでな、なんか最近カラダに変化があったねん。


 息継ぎをする回数が格段に減った。


 泳ぐスピードが上がった。


 熱い食べ物・肉系が食べられへんようになった。


 水の中におる方が楽。


 手と足、指の間にちょっぴり水かきみたいなんができているような気がせんくもない。


 そんなじっくり手足見たことないからわからんねん。


 悪い変化なんかいい変化なんかは、自分ではよう判断せん。


「ねえねえ」


「なんや」


 お決まりのやり取り。


 私は背浮きをしてくつろいでいた。


 これ、ホンマは海で遭難して救助を待つときに使うやり方なんやけどな。


 今日は幸いなことに曇っとるから、空を見上げても平気やねん。


学校ってさ」


 忘れ取った。


 海咲に話しかけられとったんやった。


 私の周りをグルグル泳ぎながら、


「楽しいん?」


「あー……」


 彼女の鱗はとても綺麗。


 時折水面に出してくれる。


 癒し。


「人によるな。私は楽しいと思わん」


「なんで?」


「友だちおらんからな」


「そっか」


 あーあ。


 ずっと夏休みが続けばいいのに。


 そったら海咲と何時間でも泳げるのに。


 学校始まってもうたら、休みの日しか遊べへん。


 考えただけで気持ちが沈む。


「てか、『人間の』って言うたけど、海にも学校あんの」


 少しでも明るい気分になりとうて話題を振る。


「あるよ! 人間に捕まらない方法とか、潮の流れのこととか、いろんなことを教えてくれるの」


「ほーん。楽しいん」


「楽しいよ!」


「友だちおるん」


「うん、いっぱい!」


 表情は見えんけどわかる。


 笑顔なんやろな。


「ええなあ。羨ましいわ」


「さくちゃん海に来ればいいじゃん!」


「はい?」


 ひらめいた! 的なトーンで言うてくれましたけども。


「あんなあ、私人間やで。アホなん?」


 ため息交じりに言えば、


「大丈夫。人魚になる方法があるのっ」


「えっ」


 驚きすぎて体制を崩してもうた。


 一瞬もがいたけど、


「ぷはっ」


 すぐに海咲が救出してくれた。


「大丈夫!?」


 滅茶苦茶焦った様子の彼女を見て、冷静を取り戻した。


「大丈夫や。ありがとうな」


 まぁ、溺れかけた元凶はアンタなんやけど。


「人魚になる方法ってなに。どういうこと」


 海咲は口に人差し指を当てて、


「まだ秘密」


 妖艶な微笑みに胸がドキっとしたのは絶対気のせい。


 にしても、なんでこの子はこんなにあざといんや。


 海の学校で『あざとい講座』的なのがあるんか。

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