第12話 競争

 お腹いっぱいになって、小休止して。


「なぁ」


「なぁに?」


「海咲は食べんでええの」


 私が食べている間、じーっと見られていました。


 非常に食べにくかったです。


「私少食だから」


「へー」


 羨ましくないけど、他の人間が聞いたら「羨ましい」って言うんやろな。


「ねえねえ」


「なんや」


 もうこのやり取りはセット。


 そう思うことしする。


「もう少し泳ごうよ」


「おん、ええで」


「やったぁ!」


 パチパチと手を叩いて喜び、向日葵みたいに明るく笑う海咲。


 やっぱり名前に『咲』をつけてよかったわ。


 いてくれるだけで周りが明るくなる。


 元気になる。


 私にこんな恋人がいてくれたら……。


 おい、なに考えてんねん。


「さくちゃん?」


 首を傾けちゃってさぁ。


 可愛いんだよ。


 絶対に言ったらへんけどな。


「泳ごうか」


「うん!」


 ゆっくりと海水に足を浸す。


 夏の熱気に照らされたカラダが冷やされて気持ちいい。


「まだまだ体力ある?」


「おん、体力には自信あんねん」


 自称『体力オバケ』やねん。


「また沖の方まで行こうよ!」


「ええで」


 ふと、水面に映った自分の顔を見る。


 海咲が笑っているのを見ていたら、私も自然に笑顔になっていた。


 これにはびっくり。


 人ではないけど、友だちというかなんというか。


 誰かと遊んだり、楽しく喋ったりして笑うの久しぶりやわ。


「じゃあ今度は競争しよっ」


「えー私の負け確定やろ」


「そんなことないって」


「いやいやいやいや」


 人魚と人間やで?


 クロールは自信がある。


 でもさ、人魚やで?


 海の中で縦横無尽に泳ぎ回るんやで?


「絶対勝たれへんわ」


「試してみようよ!」


「うーん」


 そんなキラキラした瞳で見つめてくんな。


「ね、さくちゃん」


 はぁ……しゃーないな。


「ええよ」


「やった!」


 ホンマにこの子は元気やなあ。


「ゴール地点はどないするん。目印もなんもないで」


「あっそっか」


 なんも考えずに競争を提案したんかいな。


 若干天然や。


「んじゃあ、あっちの方をスタート地点にして、テトラポットをゴール地点にするんは?」


「そうしよう! ナイスアイディア」


 そう言うと海咲はすぐに海に潜った。


 かと思えば、


「早く早く」


 秒で顔を出す。


 えっ、一瞬で数メートル移動したやん。


 言った通り私の負け確定やん。


「さくちゃぁん!」


「はいはい」


 私たちは沖の方へと泳ぎ、ミニ水泳大会を開催したのだった。


 結果はな、うん。


 大差で負けましたとも!


 そりゃそうでしょうが!


「さくちゃん結構早いね」


「嫌味か」


 初めて海咲にイラっとした瞬間やった。

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