第11話 お礼はお魚

「ねえねえ」


 テトラポットに座って休憩中。


 海咲は下半身を海に隠している。


「なんや」


 昨日もおんなじようなやり取りしたな。


 ねえねえ、って話しかけるんが海咲の癖やな。


 覚えとこ。


「昨日帽子くれたでしょ。そのお礼にね」


 彼女は海藻に包んだ魚を取り出した。


「どこに隠しとったねん」


「内緒」


 また人差し指を口に当てて……あざといわあ。


「受け取って」


「いやいやいやいや」


 帽子のお礼が魚って。


 豪華すぎるやろ。


「申し訳ないし、食べてええの? 人魚と魚って海の仲間とちゃうん」


 海咲は両手に乗せた魚をぐいっと差し出しながら、


「大丈夫。共生っていうか、自然界ってそういう循環で成り立ってるでしょ」


「ほーん」


 そういうもんか。


 食べて食べられて。


 ん? ということは、人魚は魚に食べられていることになるんとちゃうんか。


 そんなことある?


 まっ、深入りせんとこ。


 人魚が食べられとるとこなんか想像したないわ。


 今考えるべきは、


「これ、どないして食べるん。家持って帰ったら滅茶苦茶怪しまれんねんけど」


 釣りが趣味ならどうとでも言い訳ができる。


 残念ながら、私の趣味の欄に釣りはない。


「そっか。ちょっと待ってて!」


「えっ、ちょっ」


 止める間もなく海咲は海へ戻って行った。


「なにするつもりなんや――」


「ただいま」


「はっや」


 秒で戻って来た。


 早すぎるやろ。


「これだったら食べれるでしょ?」


 差し出して来たのは、さばかれた魚。


 何故かお皿に乗っている。


「え」


「あれ、もしかしてお魚苦手だった?」


「ちゃうちゃうちゃう。好きや。大好きやけど、これどないしたん」


「さばいてもらった」


「見たらわかるわ」


 アカン。


 ツッコミどころ多すぎて頭がパンクしそうや。


「お皿は?」


「海に捨てられたやつ」


「ほーん」


 捨てられていた割には綺麗な皿やな。


 じーっと見つめていると、


「あっ、これも」


 差し出されたのはまさかの醤油。


「……これはどないしたん」


「手に入れたの! 大丈夫、腐ってないよ。ちゃんと」


「ほーん」


 どっから手に入れたねん……四次元ポケット的なん隠し持ってんのか。


 こうなったらもう、天使というより魔法少女やんけ。


「食べて食べて」


 早く味の感想を聞きたいんやろうか。


 無駄に楽しそうな海咲。


 しゃーないな。


「はいよ、いただきます」


 醤油はあるのにお箸はないので、素手でいただきます。


「あっ、美味しい」


「よかったあ。さくちゃんの口に合いそうなお魚選んできたんだ」


「そうなんや」


「うん」


 獲れたてだからか。


 新鮮で滅茶苦茶美味しい。


「あのさ」


「なぁに?」


「そんなじっと見つめられたら食べにくいんやけど」


 手を止めて抗議すれば、


「だってさくちゃんの顔、好きなんだもん」


 頬を膨らませて言われてもた。


 可愛いから許したるわ。


 今回はな。

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