第8話 喋りすぎやろ

「信じてくれる?」


 不安そうに聞いてくる美少女。


「うん」


 気づけば頷いていた。


「良かったあ。あのね」


 ほっとしたのか、彼女は饒舌に話し始めた。


人間の姿になっちゃいけないって言われてるから、人間がいないところで泳いでたの。そしたらね、帽子が流れてきたんだあ。で、『誰のものなんだろう』って気になってね、こっそり水面から顔を出して見てみたらさ」


 彼女は私の目を真っすぐに見つめ、


「顔がタイプだったから拾ってあげたの」


「はぁ」


 まさかの理由。


 顔がタイプ?


 人間みたいなこと言うな。


「私、女やで」


「わかってるよ。好きになるのに性別なんて関係ないでしょ。どうして人間は性別にこだわるの?」


「うーん」


 それを私に聞かれてもやな。


 知らん。


 人間ってそういうもんやねん。


 自分とは違う人間を排除したがるもんやねん。


「だからね、返そうとして逃げられたときはすっごくショックだったの」


 明るい表情が一変して泣きそうな表情に変わる。


「それは……ごめん」


 謝るしかない。


 いや、待った。


「もうちょっとマシな現れ方あったやろ。手だけがにゅっと現れて迫って来たら、誰だって逃げるわ」


 心の中で「アホ」とつけ足す。


 初対面の人を罵倒するほど私はクズじゃない。


「そっかそっか。びっくりさせちゃったんだね。でも仕方ないじゃん、人魚の姿なんだもん」


「あのさ、気になってたんやけど。昼間はってどういうこと」


 この短時間に二回も出てきた言葉。


 気にならない方がおかしい。


「夜しか人間の姿になっちゃいけないんだあ。人魚の決まりなの」


「へー」


 聞いたのになんて返事をしたらいいのかわからんかった。


「あとね」


 自称人魚は話し続ける。


「大人になって初めて、一部の人魚に陸に上がる許しが出るの。陸に上がれるのはね、海の神様に選ばれた者だけなの」


「ってことは、大人になったばっかり?」


 海の神様に選ばれたってことは、割と凄いことなんと違うんかな。


 サラっと言われたんやけど。


「そう」


 横に揺れながら話してくれるのはええんよ。


 でもさ、


「人魚の決まりをペラペラ喋ってええん? 初対面の人間に」


 危機感なさすぎやろ。


 私がお喋り人間やったらどないすんねん。


「大丈夫。人魚が本当に存在するなんて、誰も信じてくれないよ」


「……たしかに」


 話したところで私がキチガイ認定されて終わりやな。

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