第3幕 出会い

第7話 にゅっ、の正体

 私が隣に座ると、


「はい、どうぞ」


 両手で帽子を手渡してきた。


「……どうも」


 戻って来た帽子を見つめる。


 正直もういらんのよな。


「いらないの?」


「………なんでわかったん」


 私の心を見透かしたかのように、少女は言った。


 優しくて綺麗な声。


「嬉しそうじゃないから」


「あー」


 顔に出てたか。


「ねぇ」


「ん?」


「いらないならさ」


 彼女は目をキラキラさせて、


「私にちょうだい!」


 両手を差し出してきた。


 そんな目を輝かせる物やないで。


 まぁええか。


 私が持っとるより、この子が持っとる方が帽子にとって幸せやろ。


「ほな、あげるわ」


「やった! ありがとう!」


 鼻歌を歌いながら早速帽子を被った。


 キャップやから今の服装に似合っとるけど、


「なんでそんなに服ボロボロなん」


 人見知りなはずの私。


 気づけば疑問を口にしていた。


 自分でも驚きや。


「あっ、これ?」


「そう」


「海に流れて来たものをね、姿のときだけ着てるからだよー」


「成程な……は?」


 今なんて言った。


 人間の姿のときだけ?


 え、まさか。


 ちょっと座る位置をズラし彼女と距離をとる。


「アンタ、幽霊なんか」


 好奇心旺盛な性格なもんでね。


 聞かずにはいられませんでした。


 私のアホ。


「あははっ、違うよぉ」


 楽しそうに笑う少女。


 元気いっぱいやな。


 夜やで。


「私、人魚なの!」


「……」


 衝撃的なことを聞いてしまった。


 嘘やろ。


 とはツッコめへん。


 見てもうてるから。


 彼女が手だけを水面から出して、帽子を取ってくれたところを。


 それにな、こんな純粋でキラキラした目で言われてみ?


 おばあちゃんも海に人魚がおる、って言うてたし。


 取り敢えず信じるしかないやん。

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