第2幕 海

第4話 帽子

 8月頭。


 与えられた課題は全て終えてしまった。


「うーん、暇や」


 最初は家で過ごしていた。


 家事を手伝って、おばあちゃんとのんびりして。


 のんびりして、のんびりして、のんびりして。


 いい加減ゴロゴロするのに飽きた。


「外滅茶苦茶暑いんやろなあ」


 クーラーが効いている部屋から出たくない。


 30度越えとか死ぬやん。


「でもなあ」


 暇や。


 暇すぎる。


「あっ」


 思いついた。


「海にでも行くか」


 おばあちゃんに忠告されてはいたけど、あんなの信じてへんし。


 シンプルに泳ぎたいし。


 水着なんて持ってへんから帽子被ってTシャツ短パンで砂浜に来たら、


「人がゴミのようや……」


 海水浴に来た人たちがようけおる。


 この町にこんな人おったんか。


 初めて知ったわ。


「はぁ、しゃあない」


 人込みは鬱陶しいから苦手やねん。


 防波堤の上に立つ。


 砂浜には見渡す限り、人、人、人。


 ぼっちでまったり泳げそうにない。


「どっか泳げそうなとこ探すか」


 そのまま防波堤を歩く。


 どれくらい歩いたんやろ。


 人はおらんくなった代わりにテトラポットの群れ。


「ここやったら……ってうわっ」


 突然強い風が吹き、軽く被っていた帽子が風に飛ばされてしまった。


「やらかした」


 着地点は海。


 帽子は漂い、どんどん沖の方へ流れていく。


「まぁええか」


 泳ぎには自信がある。


 取りに行くことはできる。


 でも、面倒やし、あれは母親から貰ったもんやからな。


 別にどうなってもええねん。


 もう泳ぐ気分じゃなくなって、海に背を向けた。


「ん?」


 今、なんか見えたような。


「気のせいか」


 眩しい日差しに頭皮を燃やされそうになりながら、私は涼しい家へと帰った。

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