第1幕 転校

第1話 忠告

「おはよう」


「おはよう」


 教室に入って挨拶をすれば、みんな返事をしてくれる。


 イントネーションはちゃうけど。


 私は関西から来たばっかりやから。


 17年間関西で育ったんやで。


 7月頭に転校してきて、すぐにイントネーションを変えられるわけないやん。


 転校してきて、って正確に言うと『転校させられた』が正しいな。


 原因は親の離婚。


 それは別にええねん。


 物心ついた頃から夫婦の会話なんてほぼなかったし。


 冷めた家族なんはわかりきっとった。


 親権が父親なのも別にええ。


 母親の不倫のせいで別れることになったんやから。


 けどな、転校は嫌やった。


 高校三年生の夏休み前に学校が変わるなんて、普通に嫌やろ。


 滅茶苦茶ごねたし喧嘩もした。


 結果はご覧の通り。


 強制的に父親の実家である祖母宅に預けられた。


 あの人がなんの仕事をしとるんか聞いたことないけど、出張ばっかり。


 高校生を一人で暮らさせるのは心配やったんやろうな。


「今日からお前はおばあちゃんと暮らすんや」


 それだけ言って、父親は仕事に行った。


 せやからおばあちゃん家に預けられた。


 今更父親面されても、って思うたわ。


 因みに、おじいちゃんは私が小さい頃に死んどるんで、おばあちゃんと二人暮らし。


 おばあちゃんは、私が来た初日に一つ忠告をしてきた。


「あんまり海に近づいたらいかんよ」


「なんで?」


 母親はおばあちゃんの料理が「古臭い」って嫌いやったな。


 私は大好き。


 そんなことを想いながら晩御飯を食べている最中のことやった。


「なんで?」


 ご飯を飲み込んでから尋ねれば、


「私が小さい頃の話。友だちが『人魚さんと遊んでくる』って言ってな、消えたんよ。帰って来んかった。今も見つかってない。あの子の話を信じなかったことを、とっても後悔してるんよ」


 人魚? ホンマにおるわけないやん、とは言えんかった。


 おばあちゃんがすっごい悲しそうな顔をしとったから。


「わかった」


 取り敢えず大好きなおばあちゃんを安心させるために返事をする。


 この約束を守るつもりはない。


 私は小さい頃から水泳を習っとったし、高校では水泳部に所属しとったし。


 折角綺麗な海がある町に越して来たんや。


 行かんわけがないやん。

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