第41話

しばらくして、また千歳からLINEが来た。


『ごめんね。私ももっと詳細に見ておけばよかった。そして早い段階でもっとなにかアドバイスをするべきだった。亜紀ちゃんの心を取り戻そうと、うつを治そうとしたのを優先して私も亜紀ちゃんの病気のこと、身体のこと、おろそかにしていたのかもしれない。最初に血液検査の結果を伝えられたときは、外れたのだと思ったし。ごめん、本当にごめんね』


私は自然に微笑んでいた。気遣いがありがたいのだ。


『謝る必要なんてないよ。いつか千歳が言っていたじゃん。悪いことなんかしていないのだからって。千歳はなにも悪いことなんかしていないよ』


救われていた命だ。


だから九月からのこの四ヶ月の間は、神様から貰ったプレゼント。


『明日もまた会おう? いつもの神社で』


私から誘ってみる。OKというスタンプが来た。


同じことは空君にも伝えた。グループ登録をしていないから、個々にLINEをやりとりする。


でもそのほうが一人ずつじっくりと話し合えるような気がしたし、ほんの少し相手との時間を独占できる。私って欲張り。


『空君、ありがとうね』 


ベッドに寝転び、病状を説明したあとで初詣の時のお礼を言った。


『俺、なにを言ったらいいのかわかりません。上手い言葉が見つからないです』

『普通でいいよ』

『普通ってなんすか。もうわかりません』


普通、というのも考えてみるとよくわからない。


みんなと同じということ? ちょっと意地悪して難しいことを書こうかなとも考えたけれど、大人気ないので『いつも通りでいいってことだよ』と打って送った。


千歳からも空君からも、もう返事は来ない。




私は電気を消して、久しぶりに家庭用プラネタリウムのスイッチを押す。


満天の星が天井に映し出されて、仰向けになった。


「ごめんね・・・・・・」


呟く。十八からうつになって死にたい、死にたいと毎日のように思っていたときも、私の細胞や内臓は正常に機能し、健康な身体で生きられるようにしてくれていた。


心は死にかけても身体は生きようとしてくれていた。それなのに、死にたいって願い続けてごめんなさい。


うつはそういう病気でもあるけれど身体はそういう病気じゃなかったから、きっと私の身体が怒ったんだ。これってきっと私のせい。


「ごめんね・・・・・・」


涙が出てこめかみを流れ耳にまで伝っていった。


身体をもっと大切にしてあげなかったこと。正常に機能していることが当然と驕っていたこと。


私の身体はこんなにも、生きようとしてくれている。きっと今だって、正常に戻ろうと細胞たちが負けながらも頑張ってくれている。



今まで健康でいられたことに感謝のひとつもしてこなかった。感謝するのが遅すぎた。


もっと自分の身体を大事にしていたら、こんなことにはならなかったのかな。いくら振り返っても、やり直せない。やり直せないことがまたできた。


いらないものはもう全て捨ててしまったし、他にできることはこれといってない。


そうだ。保険。確か三十で正社員として働き出したときに医療保険と念のための死亡保険に加入していたのだった。これでいくらか親には残せるかな。



久しぶりにお風呂に入ると、なんだかとても疲れてしまった。


プラネタリウムはそのままに、布団に入って早めに眠ることにした。


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