第28話


うつで狭くなっていた視界は嘘のように開けて鮮やかなものが目に入るようになった。


芝生広場では多くの人がやはりお弁当を持参してシートの上で食事をしている。


子供が元気よく高い声をあげて走り回っていた。


空いているところにブルーシートを敷き、各々持っていた本や水筒、スマホなどで四隅を固定させてから靴を脱いで座る。太陽の下で私のハートがどんどん開いていく。


なにかを感じ取れるキャパシティが広がっていく。


「はいお弁当」


手提げ袋から取り出して二人に渡す。


「中身なにかな」


千歳が蓋を開ける。二人から歓声が漏れた。


だし巻き卵に唐揚げ、ミートボールに野菜と果物。本当に子供が遠足に行く時のようなお弁当を作っただけなのだが二人はすごく喜んでいる。


「昔を思い出すわね。小学校の頃。とっても美味しそう」

「そうですね。俺も弁当なんか作らないからいつも昼はパンで。こんなの久しぶりだ」


空君はわざわざカメラにおさめている。


二人とも私の作ったものを、美味しそうに頬張ってくれる。誰かのために作って誰かが食べてくれるなんていうのは、家族以外では初めてのことで新鮮な思いがした。


「よかった。こんなに喜んでくれるなら作った甲斐があったよ」

「ありがとう」


二人は同時に言った。


「ふふ、私もありがとうを貰ったよ、ありがとう」


言って自分のお弁当を食べながら、青空を見上げた。太陽は更に高くなっていて、色々な人や木々やものを輝かせている。


私もこの瞬間だけは輝かせて貰えているのだろうか。風は冷たいけれど、太陽が照ってくれているおかげで少し暑く感じられるくらいだ。


「太陽って不思議だね」


私は空に向かって手を伸す。


「どうして」


思いがけず空君の声。


「朝は清々しく鋭い光があって、昼間は暖かさがある。そんな暖かさでみんなを照らして、夕方になったら切なく寂しい気持ちにさせる。様々な色を見せてくれる。こんなに人々の感情を揺さぶるものだったんだなって思って。千歳は前、夕暮れ時は温かな気持ちになるって言ったけど、私はやっぱり寂しいな。でもね、そんな夕暮れで寂しいと思う気持ちも通り過ぎて振り返ると私の中ではいい思い出になるんだ」



十八年もの間、巡る四季を全く無視して生きてきた。春の桜も夏の青葉も、秋の紅葉もなにも見ていなかった。


たとえ目に入っていても、無感動のまま日々を通り過ぎてきた。こんなに長くなにも感じられてこなかったことが、今ではもったいなかったと思う。


千歳が会社勤めの時は見たいものが見られなかったという話も、今ではわかる気がする。


「本当に、太陽っていろいろな顔を見せてくれるから素敵ね。人ってやっぱり光なしじゃ生きられないのかもね」


光なしじゃ生きられないって、太陽以外のことも指している気がした。


人はやっぱり希望を持たないと生きていけない。そして今、私は十代の頃とは異なる希望で溢れている。


これからの人生、どんな景色を見られるのだろうと期待をしている。



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