第24話

「すみません」


黙々と寿司を食べることに徹した。父は母とずっと喋りこんでいる。


新婚旅行はどこそこへ行って、あの時は今くらいの時期で紅葉が綺麗だったなぁ―。


私も。私も、いつか誰か自分を大切にしてくれる異性と出会えるのかな。


結婚はしたい。だが、うつ病を患っていると知ったら離れていく人は多いかもしれない。もう、結婚するには遅いのだろうか。


ううん。ここは前向きに考えよう。千歳や空君やトシさんが私を受け入れてくれたようにいつか、私のことを理解してくれる男性が現れるかもしれない。きっと千歳にだって現れる。


そう願いたい。結婚だけなら何歳になってもできるのだ。


夫婦の会話に入る余地がなかったのでそのあとも黙々とお寿司を食べて、家に帰る。とくにすることもなかったのでCycleを訪れることにした。


「トシさんこんにちは」


カランといつものように鈴の音が鳴る。


出迎えてくれるこの鈴は、いつも私のことも見てくれているのだろう。


お店は土曜のせいもあってか混んでいる。


「いらっしゃい。空が随分と世話になっているようで」

「いえ。こちらこそお世話になっています。千歳が熱を出したそうなので、家庭教師のほうは大丈夫かなって」


ボックス席はお客で埋まっていたのでカウンター席に腰をかけた。


「空呼びますね」


私は両手を挙げた。


「いえ、今日はそのつもりでは。空君にも用事があるでしょうし」

「いやいや、交流というのは大事ですから」


のれんの奥でトシさんは大きな声で空君を呼ぶ。


「ご注文は」


 二度ブレンドを頼んだから、他のコーヒーが飲みたくなった。


「じゃあ、今日はコロンビアで」

「かしこまりました」


空君は相変わらず「ちっす」と言いながらやって来る。海での疲れなどもうとっくにとれているだろう。高校生なだけあってものすごく元気そうだ。店の中ではちょっとした有名人らしく、お客のみんなが笑顔で声をかけている。


空君はひととおりお客に挨拶をして回ってから私の隣に座った。


「人気者だね」

「そういうわけではないですよ。海、ありがとうございました」

「千歳、風邪引いちゃったみたいだけど勉強のほうはどう?」


言える義理でもないのだが、それでも空君の勉学に影響が出ていたらそれは私のせいなのかもしれない。海へ行きたいと言ったのは私なのだから。


「大丈夫です。わからないところは学校の先生に聞いていますし。千歳さんからはLINEで宿題一杯出されていますし。一応LINEで千歳さんにも質問はできます」


彼は彼でなんとかやっているらしい。


「ならよかった。ちょっと心配になって」

「俺は千歳さんが心配ですよ」

「早くよくなって欲しいよね。お見舞いくらい行けたらいいのだけれど」


ワンルームマンションで一人暮らしをしているということは前から聞いているのだが、住所は教えてくれないのだ。

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