第18話
自分を責めるな
苦しくても誇らしく前に進もう
人生一回きり 立ち止まらないで
好きなことをしてもいいんだよ
滅点する社会なんて吹き飛ばせ 自分のいいとこ探していこう
自分を責めるな
立ち止まったら 誰かが手を差し伸べてくれる日が来るよ
その手を取って 前に進んで なくしたものを取り戻していこう
レッッゴー レッツゴー
君の未来は明るいよ
かなり激しい曲調だけれどテンポがいいし、歌もかなり上手い。
周りも声に出して反応している。バンドの歌の気迫と、周囲の熱に圧される。
一曲歌い終えると自己紹介と、MCが入った。拍手と歓声が一斉に沸き起こる。
そうして拍手もやまないうちにボーカルの女子生徒の一人が大声を出す。
「次いっくよー」
ここにいる人みんな元気だ。
二曲目が始まると、更に盛り上がってなんだか私の気分も高揚してきた。高揚。
こんな感情を味わうのはどのくらいぶりか。観客から手拍子やコールが聞こえるので、私もあわせて手拍子を打つ。
今この瞬間、観客と一体になってバンドをしている女子生徒を応援しようと必死になった。楽しい。楽しいと、うつが再発してから何度目の気持ちが湧いただろう。
結局、バンドは五曲全てノリノリで聴いてしまった。最後はバラードでクールダウンだ。
終わると嘘のように静かになって、観客は出て行く。私たちも外へ出た。
昼間の賑わいもすっかり寂しくなっていた。日が大分傾いている。
「そろそろ帰る?」
「そうだね。文化祭は四時半までだし」
時計を見ると四時十分。一時間もバンドを見ていたのだ。
正門から出ることにした。東の空は暗く星が瞬いており、西には紅い夕焼けが広がっていた。
陽はまだ落ちきってない。同じ駅のほうへ向かう人がちらほらと見られる。
「空、綺麗ね。いろいろな色が混ざり合って」
「そうかな。夕焼けを見るとなんだかとても寂しくなる。お祭りのあとだし余計に」
気温は下がり、寒さを感じるようになっていた。
「見て」
千歳は立ち止まり、街灯の前に立った。そうして周囲を見回す。私もつられて四方を見渡した。民家やビルが不規則に並んでいる路地。
近くの民家からは作りかけであろう料理の匂いが漂ってくる。
「いろいろなところに明かりが点いて、各家庭でもみんな美味しい料理を作っている。夕方から夜にかけては家族が集まる場所なんだって思うと、少し温かな気持ちにならない」
「一人暮らしの人は」
「私も一人暮らしだけれど、アパートの門灯や他の部屋の住人の音を聞くとほっとする」
そっか。夕方から夜にかけては寂しさを感じる時間帯だとばかり思っていたけど、そうではないのかもしれない。ただいまとおかえりが言えて、多くの人がくつろげる時間がある。あるいは「また明日ね」って言える挨拶の時なのだ。
「そう思うと、実はとても安らげる時間なのかもしれないね」
「ええ」
電車に乗り、千歳と今日見てきたことの話を色々とした。千歳はひとつ前の駅で降りていく。
「また、明日神社で」
私は大きく頷いて、手を振った。千歳も笑顔で手を振り返す。
家に着く頃にはもうすっかり夜になっており家に帰って夕食を作っていた母に久しぶりに声に出して言った。
「ただいま」
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