第2話
午後七時半。
実家の最寄り駅につき、踏切を渡って絶望的な心理状態の中、バッグと花束を抱えて夜の通りをとぼとぼと歩く。
なにもしていないのに体が重い。心が海の深いところに入り込んだように溺れかけている。
社会の役立たずだし、死んでしまおうか。死んじゃおうかな。死んだほうがよくね?
自分で死の声をループさせながら歩道を歩いていると、ホテルやマンションの林立する大通りに占い師が机に黒い布をかけて座っていた。
街灯や高いビルから漏れる灯りから、女性だとわかる。
また、占い師。昨日の占い師の顔がフラッシュバックする。
もういいよ傷つくだけだから。
そう思っても私は立ち止まる。いつも通る道だけれど、こんなところにこんな占い師などいただろうか。
仕事帰りはいつもくたくただったから、目に映っているようでなにも目に入っていなかったのかもしれない。
ホテルのお客さん目当てでこんなところにいるのかな。まあ、許可はとっているのだろう。
どうしよう。私は一メートル手前で止まったまま、立ち尽くした。もういいよと思うのに、周囲から漏れている灯りのようにまだなにか、光を期待している。よくなるための一筋の光。
あるいは死ぬための光。あの人にこの花をあげて、占いを見てもらって、また酷いことを言われたらもう死のうか。
私の人生には幸せなんてないのかもしれない。このままだったらろくに働けず、結婚もできず、餓死が待っている。
両親の死後、生活保護に頼るのはごめんだ。受給をしていたらまた不特定多数のネットの中で匿名の人たちからなにを言われるかわかったものじゃない。
こんなうつ病女は生きていないほうがいいのかもしれない。死が唯一の救いだ。
私なんか生きている価値ない。前世もどうせやりたい放題生きていたみたいだし?
賭けてみよう。酷いことを言われたら死ぬ。そうじゃなかったらもう少し生きてみる。
足音も立てずに近づき目の前に立つと、女性はびっくりしたように顔を上げる。年齢は私と同じか少し上だろうか。
「これ、あげます」
頂いた花束を、両手を伸ばして差し出した。女性はいきなりのことで戸惑った表情をする。
「とても綺麗だけれど・・・・・・どうしたの、これ」
退職してお花をもらったけれど、綺麗だと思えないから綺麗だと思える人にあげたいと思った、と話す。そうすれば花も喜ぶだろう。
「いいの?」
「いいんです。もらって下さい」
女性は逡巡しているようだったが、やがて微笑む。
「では頂くわ。どうもありがとう。そのお礼と言ってはなんだけど、占いやってく」
動悸がした。傷ついたらもう私の命はない。でもそれはそれで、背中を押してもらえるきっかけになるのかもしれない。
占い師にしてみれば迷惑な話かもしれないが言わなければわからないのだから。
「お願いします」
椅子に腰をかける。女性は花束を路上の塀に立てかけていた。テーブルの上にはワインレッドの表紙の本が一冊置いてある。あとはタロットカードに白いメモ用紙とペン。
「なにについて占いましょうか」
「えっと、私は酷いうつ病だったのですけれど、一度よくなってまた再発して・・・・・・」
昨日の占い師に言われたことを話し、更にうつになったと話す。
すると女性は息をついた。
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