第33話 なんで「なにが分からないのか、分からない」みたいな顔してんの?


 ――残り時間2:52


「勇者さまも見てみなよ〜」

「うん」


 想像するに、この中にはオレが倒すべきモンスターがいるのだろう。

 ちょっと怖い気もするが、オレは言われるがままに扉に近づいて覗き込む。


「うわっ!?!?」


 扉の向こう側はオレの想定を遥かに超えており、のけぞりながら叫んでしまった。


 キモい……。

 キモすぎる…………。


 奥の部屋は今オレがいるこの部屋の何倍もの広さだった。

 多分、この建物の残りの面積全てを占めているのだろう。


 そんなだだっ広い部屋の中に、覗き窓の少し下くらいの高さまでぎっしりとつめ込まれた、ビーチボールくらいのサイズで鈍色の金属光沢を放つ無数の物体たちが、ワシャワシャと意志を持つかのように蠢(うごめ)いていた。

 例えるならば、ギュウギュウに昆虫がつめ込まれた虫カゴ。その中で、虫たちが秩序なく動き回っている状態。

 リスティアが描いたモンスターもキモかったが、こっちもこっちで別ベクトルのキモさだ。


「……ナニコレ?」


 いきなりの理解不能な状況に、思わず言葉が漏れる。ついでに変な汗も垂れる。


「逃げ逃げ金属くんだよ〜」

「へっ!?」

「じゃあ、準備するから、ちょっと待っててね〜」


 女教師さんが部屋の隅から、タンクに繋がれたホースを引っ張ってきてリスティアに手渡す。

 オレのことは完全に置いてきぼりだ。


「いっけえええ〜〜〜〜〜」


 やたらハイテンションなリスティアがホースを覗き窓に突っ込み、嬉しそうにノリノリで掛け声を上げる。

 それに合わせて女教師さんがタンクのスイッチを押すと、タンクからなにかが流れだし――ホースの先端から勢いよく赤い液体が吹き出した。


「あはははっ。これ、楽し〜よ。勇者さまもやる〜?」


 表情をピクリとも変えない冷静な女教師さんとは対照的に、お姫さまはまるで水遊びに興じる子どもみたいに無邪気に楽しんでいる。

 いきなり振られたけど、展開にまったくついていけないオレは、どう応えるかわからず固まっていた。


「あ〜、もう、終わっちゃった〜。ざんねん〜」


 どうやら、オレが返事をする前にタンクが空になってしまったようだ。

 赤い液体が出てたのは、ほんの数十秒。

 リスティアは名残惜しそうにしていたが、女教師さんにホースを手渡すと椅子に座り込んだ。


「薬が効くまで5分ほどかかりますので、少々お待ちください」


 そう言われ、オレもリスティアの向かいに腰を下ろす。

 すぐさま、女教師さんが二人分のお茶をテーブルの上に出してきた。

 さっきの宝石商のところでもそうだったけど、いきなりお茶が出てくるの、ビックリするからやめて欲しい。

 まあ、『収納』スキルがある異世界だからこそのワザなんだろうけど、まだ慣れてないから驚いてしまう。


 ともあれ、待てと言われたので、お茶飲んでくつろぐしかないのだが、いったい今はどういう状況なんだろ?

 あの銀色物体を倒して経験値稼ぎをするんだろうけど、あれだけの数をどうすればいいんだ?

 そんなに時間もないはずだし……。

 それに、ホースから出てた赤い液体はナニ?

 女教師さんは薬だって言ってたけど……。


「あのー」

「ん?」

「説明をお願いしてもいいっすか?」


 オレの問いかけにリスティアはキョトンとしている。

 いやいやいや、キョトンとしてるのはオレだからっ!

 なんで「なにが分からないのか、分からない」みたいな顔してんの?

 いや、そんな顔も十分にカワイイけどさあ。

 反則だろ、そのカワイさ。惚れちゃうだろっ!


「あれ〜、さっき『攻略ガイド』見てなかったっけ〜?」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『、ポカンと口を開けて呆然としたまま、身体を小刻みにプルプルと震わせている』


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