第34話 、ポカンと口を開けて呆然としたまま、身体を小刻みにプルプルと震わせている

「あれ〜、さっき『攻略ガイド』見てなかったっけ〜?」


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 えーと……。

 本気……だろうか……?

 本気で…………言ってんのか?


 だが、リスティアは純粋無垢な瞳でこちらをじっと見つめるばかり。

 うん、やっぱ、カワイイなリスティアは。

 コロコロと変わる豊かな表情。

 どの表情ひとつをとっても極上にカワイイ。


 いや、違う。そうじゃないっ!

 いやいや、誤解しないで。リスティアのカワイさを否定したわけじゃない。

 もちろん、リスティアはカワイイ。そこは全力で同意だ。

 そうじゃなくて、今問題とすべきはそこじゃないってことだ。


 問題なのは――どうやら、リスティアは『攻略ガイド』に描かれた、あの名状しがたき冒涜的なスプ○のイラストで伝わると思ってることだ。


 ……恐ろしい。


 いや、伝わんねーよ!

 伝わるわけねーだろっ!


 つい、そう叫びそうになったけど、リスティアのカワイイ顔を見たオレはグッと堪えた。

 そして、その代わりに、ゆっくりと口を開く。


「えーと……うん……大体のところは……分かっていなくもない……んだけど……大事なミッションだし……間違いがあっても……困るし……念の為の……確認……っていうか……一応の保険……っていうか……オレの……理解不足……のせいだと……思うけど……もう一度……詳しく……説明して……もらえませんか……?」


 長台詞の間、オレはリスティアと視線を合わせることができなかった。ヘタレでスマン。


「あははは〜。勇者さま〜おもしろい〜。なんで、そんな、しゃべり方してるの〜?」

「…………」


 会話にならねええええええ!!!

 オレの気遣いは完全にムダだったようで、高貴なる王女様には、まったく通じていなかった……ぶん殴っていいかな?

 でも、カワイイから許す。


「では、不肖ながらも、ワタクシが代わりにご説明を――」


 ここで女教師さんから助け舟。ナイスアシストだ!

 よかったよ、ちゃんとした人がいて。

 これで彼女がマッドサイエンティストな人で「グヒヒヒヒ」な感じの会話通じない系だったら、いろいろと大変なことになってたよ、主にオレのメンタルが。


「あの部屋にいるモンスターは、通称『メタスラ』――スライムの変異種です」

「逃げ逃げ金属くんだよ〜」

「体表は金属で覆われていて高い防御力・魔法耐性を備えているとともに、とても敏捷で高い回避能力を持つのが特徴です」

「捕まえるの大変だったんだよ〜」

「そして、なにより重要なヤツらの特性というのが――」


 そこまで語った女教師さんは、そこで言葉を区切り口を閉じる。

 ジッとオレの方を見つめ、もったいぶるかのようにタメてから、ゆっくりと口を開こうとして――


「経験値ウマウマ〜〜〜」


 横からリスティアにかっ攫われた。

 リスティアさんマジ容赦ねえ。

 おかげで女教師さんは、最後に食べようと思って大事に残しておいたショートケーキのイチゴを横からパクっと食べられちゃった子どもみたいに固まっちゃってるよ。

 さっきまでは知的で冷静な無表情キャラだったのに、ポカンと口を開けて呆然としたまま、身体を小刻みにプルプルと震わせている。

 このまま泣き出しちゃわないか心配だ。


 まあ、気持ちは分からなくもない。

 女教師さんからしたら、王族と勇者を相手に自分の研究について説明するという一世一代の大舞台だ。

 ひょっとしたら、昨晩は興奮と緊張でよく眠れなかったのかもしれない。

 ここは格好良くキメたかったんだろうな。

 わざわざタメをつくってたくらいだし。


 それなのにリスティアさんったら……。

 ホント鬼畜。


 でも、さすがは女教師さん。

 両手をぎゅっと強く握り、なんとか堪えたようだ。

 他の相手だったら、ブチ切れてるんだろうけど、こんなんでもリスティアは一応王女様だ。

 さすがに、そういうわけにもいかないんだろう。


「………………コホン。で、殿下の仰るとおりです」


 咳払いひとつ。

 無理矢理気分を切り替えて、女教師さんは説明を再開した。


「現在はあちらの部屋の半分を埋めるほどの数しかいませんが、先ほど撒いた赤い薬は増殖薬です」

「水撒き楽しかったよ〜」


 女教師さんはノーテンキに口を挟むリスティアをチラッと見たが、無視して話を進めることにしたようだ。

 うん、賢明な判断だ。


「後、5分ほどで部屋を埋め尽くすほどに増殖いたします」

「ドバーッって増えるんだよ〜。勇者さま見とく〜?」


 リスティアがオレに振ってきたが、女教師さんと同じくオレもスルーしとくことにした。


「メタスラが満杯になりましたら、勇者様に倒していただくことになります」


 まあ、そういう流れだろうな。

 説明を聞いてて、某国民的RPGの経験値稼ぎ用モンスターが思い浮かんだもんな。

 さっきわざわざタメをつくってまで盛り上げようとしてくれた女教師さんには申し訳ないけど、正直なところ言われる前から想像がついてた。


 もしあそこでリスティアがかっ攫っていかなかず、女教師さんがドヤ顔で「経験値が高いことです!」とキメたところで、オレの反応は「うん、知ってた」ってところだろう。

 こっちの方が女教師さんのダメージ大きそうだな。

 そう考えると、リスティアさんグッジョブじゃないか。

 鬼畜とか言って悪かった。

 自らが悪者になってまで、女教師さんのダメージが少なくなるようにしてくれたんだな。

 リスティアさんマジ天使……だったらいいな。


 ともあれ、オレがあのメタスラとやらを倒すのは分かっている。

 問題なのは――


「でも、どうやって倒すんですか?」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『いくら、イージーモードとはいえ、イージーモード過ぎるだろっ!』


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