第32話 ちょっとSっ気を感じさせる、綺麗なアラサーな年上お姉さん

 ――リスティアに連れられて歩くこと5分。


 『古代遺跡』の入り口前からグルっと回って、たどり着いたのは遺跡の裏手にあるちっぽけな建物だった。


 いや、客観的に言えば、そんなに小さい建物ではない。

 日本にある平均的な戸建て住宅くらいの大きさだ。

 石造りの建物で、一階建て。

 古びた『古代遺跡』とは対照的に、こちらはまだ建造されてからあまり月日が経っていないようだ。


 この世界の建築基準だと、十分に大きな建物なんだろうけど……ねえ。

 その背後に、まさにファンタジーな巨大遺跡がそびえ立っているから…………ねえ。

 しかも、これから遺跡にチャレンジだって散々意気込んでたところだったから………………ねえ。


 …………はあ。


 なんか、一気にテンション下がっちゃった…………。


「着いたよ〜。ここだよ〜」


 笑顔でリスティアが指差したその建物、よく見れば『王立モンスター研究所 古代遺跡支部』と日本語で書かれた看板が掲げられていた。


「なぜに日本語?」

「だって、ここは勇者サマ専用の施設だもん」

「なるほど」


 納得できるような、納得できないような理由だけど、それほど気になるわけでもないから、まあいいや。

 そんなオレの気持ちはつゆ知らず、姫さまは扉の横に立っている守衛みたいな二人に「よっ」と軽い調子で声をかけて、建物の中に入って行った。

 彼女に従って『王立モンスター研究所 古代遺跡支部』の中にオレも入る。


 研究所っていうくらいだから、大勢の研究員が忙しそうに走り回っていたりとか。

 数人で侃々諤々のディスカッションをしてたりとか。

 なにに使うのかわからない研究機材やら試料やらでとっ散らかっていたりとか。

 ボサボサ髪のマッドサイエンティスト風メガネっ子がグヒヒヒとか言いながら怪しげな実験をしてたりとか。

 机の上には整理しきれないほどの書類が山のように積まれていて、ロリ巨乳なショートカットのドジっ子がうっかりぶつかって雪崩を起こしたりとか。


 そういうのを想像していたんだけど、実態は全然違うものだった。


 まず、その内部は外観に比べて大分狭い。

 よく見ると奥の壁に扉がある。奥にはまだ別の部屋があるようだ。

 オレが想像したような風景は、そっちで繰り広げられてるのかな?


 狭い部屋の中は置かれている物も少なく、こざっぱりしている。

 部屋中央には小さめのテーブルひとつと椅子が4脚。後は壁際に棚があるくらい。

 必要最低限というか、ホントにこれだけで足りてるのってレベルの品揃えだ。

 こうやって見ると、研究所というよりは、一般家庭みたいだけど……。

 あっ、よく観察してみれば、部屋の隅っこに大きめなタンクと、それに繋がれたホースがある。研究所らしい備品といえば、それくらいだった。


 そして、部屋の中には女性が一人いただけだった。


「お待ちしておりました、リスティア殿下。準備は整っております」


 出迎えてくれたのは白衣の女性だった。

 長く艷やかな黒髪をまとめ上げ、スタイリッシュなフチなしメガネ越しに伝わってくる鋭い眼光、身体にピッタリとフィットしたタイトなミニスカスーツ姿、その上から羽織っている白衣が絶妙に似合う、ちょっとSっ気を感じさせる、綺麗なアラサーな年上お姉さんだ。

 白衣が似合う女性っていえば、こういう女教師タイプの人か、ちっちゃい小生意気なロリっ子と相場がきまってるよな。

 好みは人それぞれだと思うけど、オレとしては女教師タイプ派だな。

 こういう人が担任だったら、皆勤賞間違いなしだ。

 ただ、見惚れてしまって授業に見が入らないっていう弊害付きだけど。


 とか考えながら女教師さんに見惚れていると――


「も〜、浮気禁止だよっ!!」


 とほっぺたを膨らませたリスティアに頬をギュッと抓まれた。

 本気でつねっているわけじゃないから、飛び上がったり絶叫したりするほどの痛さではないんだけど、その直前ギリギリのピンポイントな痛さをついてくる、ムダに高度な技術の頬つねりだ。すんごく痛い。


 そういえば、妹姫のイーヴァと目が合った時にも、「も〜、勇者さま〜、ロリコンはメッだよ〜」って怒られたな。

 意外とヤキモチ妬きなリスティアさんカワエエ。

 イーヴァの件は完全な冤罪だけど、今回は少しばかり疚しい気持ちがなくもない。

 だから、ここは素直に謝っておくべし。


「ごめんなさい」


 オレが頭を下げて誠意を見せると、リスティアは手のひらを返したように元の機嫌に戻った。やっぱチョロインなんか?


「じゃあ、さっさとやっちゃおうね〜、勇者さま〜」

「おう」


 勢いで返事してしまったけど、実のところ、なにをしたらいいのか、オレはまったく知らん。

 なにせ、頼りになるはずの『攻略ガイド』なんだけど――そこに描かれているのはひと昔前の国営放送の教育番組でうたのお姉さんが召喚したス○ー的なナニカだった。

 その色彩感覚の狂ったおぞましい存在と戦わなきゃいけないんだったら、オレは全てを投げ打って全力ダッシュで逃げ出すよ。

 明らかに、魔王よりも邪悪な存在感漂わせているんだもん。


 いやいや、これはリスティア画伯の卓越した芸術的センスによる高度に抽象的でポスト・モダン的な表現ゆえに、こうなってしまっただけだろう。

 実際にこれから相手にするモンスターはこんなに物騒なヤツじゃないはずだ……きっと。

 うん、だってイージーモードだもんな。

 だいじょうぶ、だいじょうぶ。


 そんな感じでオレが自分を安心させようとしている間に、リスティアは女教師さんと連れ立ち、奥の扉の方へ歩いて行った。

 その扉は、見た感じでは金属製のようで、真ん中らへんに魔法陣が刻まれていた。


 リスティアが魔法陣に片手をかざし短く詠唱すると、これまで見たのと同じように、魔法陣が青白く光る――。


 しばらくして魔法陣の発光が収まると同時に、扉の上部――ちょうど目の高さくらいの位置だ――に四角い穴が開く。

 場所といい、サイズといい、覗き窓だろうか?


 そんなオレの疑問に応えるかのように、リスティアがそこを覗き込む。


「うんっ! ばっちしだねっ!」

「はい。予定通りの個体数を確保できております」


 リスティアは満足気な様子で、こっちに手招きする。


「勇者さまも見てみなよ〜」


 リスティアに呼ばれ、軽い気持ちで覗き窓の向こうを見てしまったことをオレは激しく後悔する――。








   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『なんで「なにが分からないのか、分からない」みたいな顔してんの?』


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