第31話 女の子はグイグイと引っ張ってくれる男に弱い


「すっ、すげええ……」


 オレは目の前に広がる光景に感動していた。


 見上げるほどの高さの巨大な古代遺跡。

 ピラミッドのような砂岩でできたそれは、風化によって崩れた表層に幾重にも蔦が絡まり合い、歴史を感じさせられるような、まさに、ダンジョンといった貫禄の佇まいだった。

 森の中だというのに、入り口前は広く切り開かれ、座り込んで休憩している冒険者たちや、その冒険者相手に商売をする商人たちのテントで賑わっていた。

 フェニックスが余裕で着陸するスペースがあると言えば、その広さは伝わるだろう。


「こうだよな、やっぱ、こういうのじゃないとなっ!」


 ようやく、やってきましたよ!!

 今まで勇者らしい冒険が皆無だったけど、やっとカッコいいところ見せれるぜ!


 初のダンジョン挑戦に向けて、オレのテンションはめっちゃ上がってた。

 いや、厳密には、四竜戦でもダンジョンに行ったけど、あれはボス直前の100メートルを歩いただけだから、ノーカンだノーカン。


 四竜戦でレベルアップもして、現在レベル273。

 装備も勇者シリーズで全身揃えて、セットボーナスで性能値2倍。

 『トルマリン・リング』で、敵を倒せば経験値10倍。


 よしっ! 準備万端だっ!!

 足りないのはプレイヤースキルくらいだが、そんなもんレベルとステータスの暴力で無問題っ!!!

 レッツ無双だ、無双無双っ!!!!

 やったるで〜〜〜!!!!!


「よし、行こうっ、今すぐ、行こうっ!」

「うんっ!」


 張り切り勇んだオレは耐え切れず、リスティアの手を掴み『古代遺跡』に向けて歩き出した。

 今まではずっと彼女に手を引かれる立場だったけど、今回ばかしは立場逆転だ。


 いつまでも「後をついて行く」だけのオレじゃない。だって、オレ勇者だもんな。

 みんなを引っ張っていくリーダー的立場だもんな。

 それに、女の子はグイグイと引っ張ってくれる男に弱いって言うし。

 これでリスティアもオレの頼もしさに惚れ直したことだろう。


 リスティアの手を引くオレは『古代遺跡』の入り口へと力強く歩みを進める。

 だが、そんなオレたちの行く手を阻むかのように、入り口前でもたついている数人の冒険者パーティーが立ち往生していた。


 ジャマだよジャマ。

 彼らに悪意はないんだろうけど、今のオレにとっては障害物以外のなにものでもない。

 とっととソコをどいてくれっ!


 オレの気迫が伝わったのか、それとも、立派な勇者装備というハッタリが効いたのか、彼らはオレたちに気づくとサッと左右に別れて、道を開けてくれた。


 まさにモーセになった気分。

 いや〜、気持いいなあ〜。

 勇者やっててよかった〜。

 ごくろう、ごくろう〜。


 ウッキウキな気分で彼らの間を通り抜け、入り口まであと数歩。

 もうオレの行く手を遮るものは、なにもない。


 いざ、出陣――。


 ――と思ったところで、オレの手は強く引っ張られた。


「そっちじゃないよ〜、勇者さま〜」

「ファッ!?」

「だから、そっちじゃなくて〜、こっちだよ〜」


 リスティアが指差しているのは、『古代遺跡』の入り口ではなく、明後日の方向だった……。


 …………どういうこと???






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ちょっとSっ気を感じさせる、綺麗なアラサーな年上お姉さん』


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