第29話 砂漠地帯という気候のせいか、街のおにゃのこ達がみんな薄着なのですよ!


「それで、ひとつお願いがあるんだけどー」


 支払い代金が積まれたトレイを持って下がろうとしたダンディーさんにリスティアは歩み寄るとなにか耳打ちしている。


「承知いたしました」


 短い会話が終わるとダンディーさんはあらためて退出して行った。

 リスティアはウキウキした様子で戻ってきて、オレの隣に腰を下ろす。


「お茶美味しいよね〜」

「ああ」


 ひと仕事終えたからなのか、彼女はリラックスした様子でお茶に口をつける。

 両手で抱えたティーカップを口元に運ぶ所作はとても上品で、やたらとサマになっていた。

 こういうところに育ちの良さが現れてるんだよなあ、と庶民オブ庶民のオレはズズズッとお茶を啜りながら、しみじみと感じ入った。



「そういえば、今なに話してたの?」


 オレの問いかけに、リスティアはエヘヘと笑い、小さく舌を出す。

 途端、高貴なお姫様から親しみやすいフツーの女の子へと様変わりした彼女のあまりのカワイさに、思わずドキリとしたオレは、ついつい彼女に見惚れてしまう。


「そうだ、コレ」


 リスティアはテーブルの上のリングを手に取り、オレの左腕にはめてくれる。

 なんか、露骨に話をそらされたけど、リスティアがあまりにカワイすぎて、それ以上追求する気になれなかった。

 まあ、いいや。話を合わせとこう。


「これは?」

「今回のミッションの目的、『トルマリン・リング』だよ〜」

「ほう」


 そういえば、4つ目のミッションはここ「商業都市国家『シティー』に移動せよ」だったな。

 5つ目のミッションの目的はいまだ確認していなかったが、どうやらこの腕輪がそれのようだ。

 そう思いながら、オレは『攻略ガイド』を開いた。


【ミッション5】 『トルマリン・リング』を入手せよ(所要時間30分)。


 ズバリ、そのままなミッションだった。

 『攻略ガイド』の該当ページには、この街『商業都市国家シティー』の地図が描かれており、オレたちが最初に降り立った中央広場やこの宝石商の豪邸がわかりやすく記されている。

 それ以外にも、この街の名所や名産料理などが列挙されていて、魔王とかどうでもいいから、この街で観光していきたい欲求が激しく刺激される。

 異国情緒ただよう街並みも素敵なのだが、なによりも、砂漠地帯という気候のせいか、街のおにゃのこ達がみんな薄着なのですよ!

 砂漠で素肌を露出してて日焼けとか大丈夫なのか心配になるけど、きっと魔法的なナニカで平気なのだろう。ビバ魔法!

 そんなわけで、みんなここぞとばかりに魅力的な素肌を晒していたんですよ。

 これはもう、観光と言わず、定住したいくらいなのですよ!


 …………うん、無理なのは知ってる。ちょっと夢見ただけだ。


 ちなみに、地図の他には、『トルマリン・リング』のイラストも描かれているが、今オレの左腕にはめられているソレと寸分違わぬ姿だし、『攻略ガイド』の該当ページにも「ミッション5クリア」と表示されているから、このリングは本物で間違いないだろう。


 相変わらず今回も「後をついて行くだけの簡単なお仕事」だったな…………。


 そろそろ、ちゃんとしたお仕事がしたくなってきたぞ。

 いくら面倒くさがりのオレでも、せっかく異世界勇者をやることになったんだから、いい加減ソレっぽいことがやってみたい。ちょっとはカッコいいことしてみたい。

 次こそはそういうミッションでありますように、と期待しながら『攻略ガイド』でミッション6の内容について確認しようとしたところで――。



「では、こちらになります」


 ダンディーさんが領収書らしき羊皮紙と小さな箱を手に持って、戻ってきた。


「ありがとー」


 リスティアはそれらをロクに確認もせずに【収納】に放り込むと、颯爽と立ち上がった。


「じゃあ、いこ〜、勇者さま〜」

「お、おう」


 オレが腰を持ち上げるや否や、リスティアはオレの手を掴み、歩き出す。

 慌ててお辞儀をするダンディーさんには目もくれず、ツカツカと玄関に向かい、外に出ると走りだした。


「また急いでいくよ〜」


 はあ、忙しないなあ。

 やはり、帰りも行きと同じ全力ダッシュで街を駆け抜け、オレたちはラミアの下へと戻るハメになった――。


 商業都市国家『シティー』――せっかく異国情緒あふれる魅力的な街並みだったのに、結局、ここもろくに観光できずに終わっちゃったよ……。


 ――ミッション5クリア――








   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『こうだよな、やっぱ、こういうのじゃないとなっ!』


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