第28話 外で待っててもいいかな? オレ、役に立たなそうだし……


 ――残り時間3:24


 豪邸の玄関前には立派な建物に遜色ない、格調高い雰囲気の執事っぽいダンディーな壮年男性がこちらを出迎えるように立っていた。


「お待ちしておりました。リスティア殿下」


 玄関の扉はすでに開かれており、リスティアは軽く挨拶して建物内へ入っていく。

 豪邸と執事男性に見入ってたオレも、慌てて後を追う。

 何度か訪れたことがあるのか、リスティアは慣れた様子で進んでく。

 オレと執事さんもその後を黙ってついて行く。


 そして、扉の開かれた部屋へと到着し――。


「これはこれは殿下。相変わらずのお美しさで」


 応接間というのが正しいのだろうか?

 20畳ほどの広い部屋で、絨毯はフカフカ、置かれてる調度品はとても高そう。

 部屋の中央にはローテーブルと、それを挟むように向き合ったソファー。シックで上品でセンスあふれるもの――な気がする。とっても高そう。


 素人のオレには実際の価値はよくわからんけど、なんかべらぼうに高そうなものばっかだってことだけは感じられる。

 置かれてる壺をうっかりパリーンしただけで、人生終了のお知らせ間違いなしなんだろうな。


 そんな場所でオレたちを待っていたのは、まさにジェントルマンというべきナイスミドルだった。

 宝石商らしく指輪やブレスレッド、ネックレスなど多くのアクセサリーでその身を飾り立てていたが、決して下品ではない。

 お世辞のような挨拶も嫌らしさがなく、さっきの慇懃無礼なおっさんズとは雲泥の差だ。


 うーん、リスティアもジェントルさんも執事さんも、三人とも当てはめたようにこの場所に違和感がなさすぎる。

 それに対して、オレの場違いっぷりっていったら……。

 勇者になったとはいえ、日本ではただの一般庶民だったもんなあ……。

 こんなハイソな空間には、まったく縁がなかったから、いまいち落ち着かない……。

 外で待っててもいいかな? オレ、役に立たなそうだし……。


 そんなオレの思いをよそに、リスティアはジェントルさんの挨拶を華麗にスルーして、ソファーに腰を落とす。


「あー、今日は急いでるから、そういうのナシでー」


 軽い調子で言い放つと、ソファーをポンポンと軽く叩き、オレに隣りに座るように促した。


「はっ、かしこまりました」


 さすがは一流の商売人だからなのだろうか。ジェントルさんは傍若無人なリスティアの振る舞いにも顔色ひとつ変えない。

 さっきのアタフタしていたおっさんズとは、これまた月とスッポンだ。

 完全にオレが口を挟める空気じゃない。

 歩くと足元が沈み込む絨毯を進み、オレもリスティアの隣に腰を下ろした。


「約束の品はこちらになります。ご確認を」


 オレが座るやいなや、執事さんから受け取ったトレイをダンディーさんがテーブルの上――オレたちの手の届く位置にそっと置いた。

 いつの間にそんな準備を!?

 執事さんもダンディーさんも、さっきまで手ぶらだったはずだから、オレは驚いた。

 ほんと、この人たち手際よすぎる。


 と思った隙に、テーブルの上にはいい香りの漂うティーカップが2つ並べられてるよっ!

 全然気づかなかった……。

 多分、執事さんの仕業だとは思うけど……。

 

 緊張をほぐすためにも、オレはティーカップを手に取りフウフウと冷ます。猫舌なんだよね、オレ。

 ひと口含むと、紅茶のようなハーブティーのような、飲みなれないけど、豊かな風味が口の中に広がった。うん、おいしい。

 貧乏舌だから、どう美味しいのか説明できないけど、べらぼうに高価な茶葉なんだろうってことはオレでもわかる。ステータスに補正値がつきそうな美味さだった。


 リスティアはといえば、お茶には目もくれず、トレイに手に手を伸ばしていた。

 黒い木製のトレイで、カラフルな宝石で飾り立てられている贅沢な品だ。

 その中央には、大きな赤い宝石がひとつ嵌めこまれた腕輪のようなものが置かれていた。

 装飾過多なトレイとは対照的に、目立った飾りもないシンプルな金属製の腕輪だ。

 見た目だけなら、むしろ、トレイの方が主役に思える。

 リスティアは腕輪を掴みあげ、チラッと眺める。

 そして、納得した様子で、


「問題ないわね。はい、お代」


 と、【収納】から小袋を取り出し、テーブルの上に放り投げた。

 硬貨がズッシリと詰まっているのだろう。小袋が重い音をたてる。

 「かしこまりました」とダンディーさんはトレイの上に硬貨を積み上げ、並べていく。ずいぶんと大きく高額そうな硬貨だった。


 そして、硬貨の枚数を数え終えたダンディーさんは意外そうな顔をする。


「お話では、たしか、1,000万ゴールド――」

「1,300万ゴールドだったよねー」

「…………」


 いきなり割り込んできたリスティアに、ダンディーさんはしばし黙り込む。

 しかし、リスティアの笑顔になにかを察したようだ。


「失礼いたしました。お約束通り1,300万ゴールド、確かにお預かりいたしました」

「じゃあ、それで領収書きっておいてねー」

「かしこまりました」

「それで、ひとつお願いがあるんだけどー」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『砂漠地帯という気候のせいか、街のおにゃのこ達がみんな薄着なのですよ!』


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