第23話 でも、まだ頑張れるよねー?

「あの、せめて、上から降りて、隣りに座ってもらえませんか」


 駄々をこねられるかと思ったけども、リスティアは意外にもすんなりとオレの提案を受け入れ、オレの隣に腰を下ろしてくれた。

 けど、すごい密着しているから、相変わらずのいい匂いにアタマがクラクラしてやられそうになるし、二の腕は驚異的な柔らかさの物体で包み込まれているし、上目遣いで潤んだ瞳で見つめられてて、いろいろとアカン。


 ということで、気分を紛らわさないと暴発しちゃいそうだから、リスティアから視線をそらして、あたりの風景を眺めることにしよう。


 城の屋上から飛び立ったオレの視界に飛び込んできたのは、王城を中心に栄える城下町――石とレンガでできた家々が立ち並ぶ中世ヨーロッパ風の街並みで結構遠くまで広がっていた。

 そして、その周囲にはどこまでも続くような広大な穀倉地帯。


 こっちの世界に来てからやったことと言えば、主に王城の中をあっちこっち移動してただけだ。

 それ以外では、4匹のドラゴンを倒しに行っただけ。

 ドラゴンがいた場所は、普通の人間が辿りつけないような極限環境だったから、ようやくこうやって、こっちの世界の一般人が生活している風景を眺めることができて、中々に感動できた。


 だけど、どうせチート攻略するせいで、きっと自分の足で見て回ることはできないんだろうな……。

 そう思うと、ちょっと切ない。

 せめて、この目に焼き付けておこうと、オレはしっかりと眼下に広がる光景を観察することにした。


「けっこうスピード出るんだな。さすがは聖獣だな」


 某国民的RPGの空飛ぶ鳥で移動する時は、ゆったりとしたテンポのBGMが流れていた。

 そのせいで、のんびりとした空の旅を想像していたのだが、フェニックスは思いの外速かった。

 今も、高速道路を走る車くらいの速度は出ている感じで、風景はどんどんと流れ、背後の王都はどんどんと小さくなっていく。

まあ、さっき、リスティアに「気合い入れてこっか」って言われてたし、フェニックスも本気出してるんだろうな。


 ちなみに、これだけの速度が出ていても、オレと姫さまを包む半球状の透明なバリアのおかげで風は全く感じないし、揺れもほとんどない。

 フェニックスでの空の旅は、とても快適なものだった。


 さっき見た調教風景の印象が強すぎて忘れそうになるけど、フェニックスは神の遣いともいわれる神聖で強大な存在。本気を出せば国のひとつやふたつ容易く消し去る力を持っている。

 こうやって飛翔能力をひとつとっても、その力の一端が垣間見れた。

 そして、そんな存在を本気でビビらせ、完全服従させるリスティアさんは、やっぱり容赦がなかった。


「でも、まだ頑張れるよねー?」

「きゅい!?」


 またもや、極上の笑顔を見せるリスティアさんが怖すぎる。

 側から見てる第三者のオレでも背筋がゾワっとして、冷や汗が伝うほどだ。

 当のフェニックスにしてみれば、生きた心地がしないだろう。リスティアさんへの恐怖はオレなんかよりも遥かに深く刻み込まれているだろうし。

 位置関係のせいでその表情までは見えないけど、その声色と気配から怯えっぷりが痛い程に伝わってくる。


 いや、今でもフェニックスは十分頑張ってると思うぞ。

 表情から必死さが伝わってくるし、息づかいもマラソン選手みたいにゼエハアしてるし。


 フェニックスが頑張っているのには理由がある。

 というのも、さっきのミッションで予定以上に時間がかかってしまい、現在時間が押している状況だ。

 しかも、その原因はフェニックス。

 そんなわけだったから、リスティアさんは激おこなのだ。

 さっきもオシオキとか言ってたし……。


「ね?」

「きゅ、きゅい!」


 リスティアさんの駄目押し。

 こうなると、フェニックスに選択肢があるわけもなし。

 フェニックスは即座に首肯の意を示すと、必死になって急加速――高速道路でも一発免停間違いなしな速度に達した。


 ――頑張れ、フェニックス。死ぬんじゃないぞ!








   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『それで、今、どこに向かってんの?』


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