第17話 ちょっとキツめのヤツ、一発いっちゃおうかー
「でもさ――」
そこで言葉を区切ったリスティアは怒りの形相でフェニックスを睨みつける。
その視線に射すくめられたフェニックスは、この世の終わりみたいな顔してる。
あっ、やべ……。オレも少しちびっちゃった……。
そして、リスティアは急に表情を変える。
慈愛に満ちた、すべてを赦すような笑みだ。
ワンタッチお着替えのときみたいに、般若から聖女へと瞬時の変身だった。
「わたしにー、手間かけさせたからー、ちょっとオシオキが必要だよねー」
リスティアさん、笑顔でそのセリフはマジでやめて下さい。
怒り顔のままで言われる方がよっぽどマシです。
いや、ほんと、第三者のオレまでガクブル状態って、どんだけですか?
ほら、実際、当事者のフェニックスなんか口から魂抜け出しかけちゃってるし……。ご愁傷さま。なむ。
「じゃあ、ちょっとキツめのヤツ、一発いっちゃおうかー」
リスティアは手に持っていた最後の宝玉を大きく振りかぶってから、フェニックスの口に渾身の勢いで叩き込んだ。
「ぎゅい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛」
聞いているこちらの胸が苦しくなる、断末魔のようなフェニックスの悲痛な哭き声が響き渡った。
フェニックスが無事なのか、どうか……。
少なくとも、メンタルはバッキバキだろう。
だが、ともかく、フェニックスはすべての宝玉を飲み尽くした。
漢だ。ホンモノの漢だ。
いや、性別知らんけど。
モフらせてくれなかった恨みで、ちょっとざまあとか思っててスマンかった。
今では、本気でフェニックスに同情しているぞ。
つーか、よくよく考えてみれば、あそこでフェニックスに絶望を与えたの、オレのヒロイン役なんだよな……。
明日は我が身か……。
知られざるリスティアの新たな一面を知って、オレは戦慄に震え上がった。
「あの調子で躾けたんですよ」
オレの隣りで黙って成り行きを見ていたイーヴァがボソッとつぶやいた。
「フェニックスは姉上には絶対服従です。聖獣相手にそんなことをするなんて、我が姉ながら本当にアタマオカシイとしか言いようがないです」
激しく同意だ。
さっき言われたときは「そこまでか?」と思っていたけど、今なら自信持って断言できる。
リスティアさん、まぢヤヴァイ!
「じゃあ、最後の仕上げ行くよー」
リスティアは魔法陣の中央にフェニックスを置くと、魔法陣の外に出る。
さっきまでとは雰囲気も変わり、真剣な表情だ。
そして、リスティアは流れるような詠唱を始める。
イーヴァもそれに合わせて詠唱を行う。
厳かな雰囲気の中、覚醒の儀式は最後の段階へと至る――。
◇◆◇◆◇◆◇
「――汝、真の姿を取り戻し、盟友として力を発揮なされよ」
「――発揮なされよ」
二人の詠唱が終わった。
瞬間、魔法陣を包み込むように浮かび上がった六色の光が遥か高く天空まで立ち上る――。
一分ほどの短い時間だっただろうか。
その間、オレは幻想的な光景に見とれ、棒立ちのまま言葉もなく呆けていた。
やがて――光が収まる。
そこに現れたのは、直径10メートルほどの魔法陣ギリギリに巨大化したフェニックスだった。
あの愛くるしいモコモコ姿の面影は、その赤い色くらいしか残されていない。
大きな翼と長い尾。全身は赤く艷やかな流れるような長毛に覆われている。
そして、その瞳からは高い知性が感じられた。
聖獣フェニックス――その名に恥じない神々しい風格だった。
覚醒したフェニックスは、その翼を大きく広げ、二、三度バサつかせた。
たったそれだけで、オレはノまれてしまった。
イーヴァが言っていた「聖獣は人間よりも遥かに格上の存在」――その言葉の意味を、オレはようやく理解した。頭ではなく、本能で。
さっき自分が気軽にモフろうとしていたなんて、とても信じられない。
覚醒したフェニックスの真の姿を前に、オレは畏怖のあまり立ち尽くすことしかできなかった――。
――ミッション3クリア――
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『どっかの野外フェスかよ』
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