第7話 勇者さま〜、ロリコンはメッだよ〜

 ――残り時間5:19


 イーヴァの後について城内を歩くだけの簡単なお仕事だったので、最初のミッションは特になんの苦労もなく無事クリア。

 強いていえば、薄暗い明かりの中、腕に抱きつくリスティアというオプションを抱えながら、らせん階段の不揃いな段差を踏み外さないように気をつけなければならなかったくらいだ。


 しかし、魔王を封印したら、この隣にぶら下がっているカワイイ女の子がオレのお嫁さんなのか。

 まだ性格はよく知らないけど、そんなの気にさせないくらいのハイレベルな美少女だ。

 しかも、オレへの好感度も高く、彼女もオレと結ばれることは望んでいる雰囲気。

 結婚相手として、もちろん、文句なんかない。

 イージーモードだからなのか、こんなの話が良すぎていいものなのか、ちょっと疑問になるくらいだ。

 でも、エヘヘと笑うリスティアの横顔を見ていると、そんなの気にならなくなっちゃう。

 オレは間違いなく、リスティアに惚れ始めていた。


 石扉を通り抜けて『転移の間』に入ると、いきなり視界前方に半透過ウィンドウが浮かび上がった。


「うおっ!?」


 そういえば、ミッションクリアしたら自動的に『攻略ガイド』の次のミッションが書かれてるページを表示する機能をオンにしてたな。

 これ、いきなりだとビックリするな。

 やっぱ、オフにしておこう。


 ともかく、次のミッション内容はこんな感じ。


【ミッション2】 四竜を撃破せよ(所要時間20分)。


 『攻略ガイド』には四匹の竜のイラストが描かれ、その下にデカデカと「倒せ!!」と書かれていた。

 イラストは絵師にお金をかけましたって感じのハイクオリティーな仕上がりで、ムダに凝っている。


 でも、情報量が少なすぎる。

 弱点は何だとか、そういうお役立ち情報はまったくナシ。

 これでどうしろっつーんだって話。

 『攻略ガイド』と謳(うた)っている割には、大雑把すぎる。


 つーか、なんか早速すげーのキタ!

 1つ目のミッションとのギャップがあり過ぎる。

 お散歩の次がドラゴン退治とか、意味分からん。


 RPGだったら終盤で出てきそうな対ドラゴン戦✕4。

 しかも、レベル1で所要時間20分とか、どんな無理ゲーだよ。

 ほんとにイージーモードなのか?


「なあ、大丈夫なのか? オレまだレベル1だぞ? しかも、この紙装甲だぞ? それに時間も足りるのか?」

「へ〜きへ〜き〜」

「問題ありません。姉上と私で攻略いたしますので、シズク様はこちらの指示に従って頂ければ、それで十分です」


 心配するオレに対し、二人とも事もなげな反応だ。


 まあ、言われた通りにするか。

 今のオレになにができるわけじゃないし。

 大丈夫。長いものに巻かれて、流されるままにラクに生きていくのとか、チョー得意だから、オレ。

 ということで、自分の役割に関してさっさと折り合いをつけたオレは、あらためて室内を見回した。


 石壁に囲まれた狭い室内――出入り口はオレたちが入ってきたヤツだけだ。

 調度品などは置かれておらず、白い線で描かれた直径1メートルくらいの魔法陣らしきものが床に2✕2のかたちで4つ配置されている。

 さらによく観察すれば、石壁にも似たようなものが1つ。ただし、こちらは手のひらサイズの小さなものだった。


 まあ、『転移の間』っていうくらいだし、ミッション内容から推測するに、床の4つの魔法陣からそれぞれのドラゴンのとこに飛んで行けるんだろな。


「姉上、時間がありませんので」


 イーヴァがこちらにジト目を向けてくる。

 もちろん、その対象はオレではなく、隣に引っ付いているリスティアだ。

 リスティアはこれまで、進行を妹に丸投げし、オレの腕に抱きつき、時折セクハラ気味なちょっかいを出してくるだけだった。

 本来なら嬉しいシチュエーションなはずだけど、ゴツゴツした全身鎧のせいで痛いだけだったのが残念だ。まあ、ちょっといい香りが漂ってくるからオレとしては拒むほどではなかったけどね。


「えー」


 そう言いながらも、リスティアは不承不承オレの腕から離れ、壁の魔法陣に手をかざし、「起動(アクティベート)」とひと言唱える。


 途端、床の4つの魔法陣が光輝き始める。それぞれ赤、青、緑、黄と異なった色を放っている。


「時間がありませんので、早々に参りましょう」


 言い終わる前に、イーヴァはさっさと青い魔法陣の上に移動してしまった。


「さあ、勇者さま、行こ〜」


 オレもリスティアに手を取られ、二人で移動する。

 柔らかい手が女の子を実感させる。

 肌寒いはずなのに、オレの手は少し汗ばむ。


 直径1メートルほどの狭い魔法陣だ。

 その上に3人で立つと、リスティアだけでなくイーヴァとも触れ合いそうな近さ。

 こちらを見上げるイーヴァと目が合った。

 幼いながらも、端正に整った美しい顔立ち。

 透き通る白い肌によく似合う緑がかった銀髪。


 静かに見つめる無垢な視線に思わずドキリとしてしまう。

 さっきの話を思い出す。

 オレが望めばイーヴァとも……。

 さすがにこの年齢はともかく、数年後のイーヴァを想像すると…………。


「も〜、勇者さま〜、ロリコンはメッだよ〜」


 リスティアによる謂れなき弾劾が始まりかけたが、例の「時間がありませんので」の言葉で、彼女は素直に矛先を収めた。

 本気で怒っているんじゃないんだろう。

 怒るフリをしたじゃれ合いみたいなものだろう。

 実際、すでになにもなかったかのような笑顔に戻っている。


「じゃあ、行くよ〜」


 リスティアが「転移(トランスポーズ)」と唱え、オレたちは燐光のような青い光に包まれながら転移を果たした


 その時見えたイーヴァの横顔が少し赤くなっていたように見えたのは、オレの気のせいだったのだろうか……。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『立っているだけのお仕事です!』


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