第2話 お姫さまは最初から好感度MAXだった
まばゆい光でなにも見えない中、オレは強い衝撃を受けた。
なにか重いものが身体にぶつかり、首を絞められる。
とっさの事態に身の危険を感じたオレは、手足をバタバタさせてもがく。
そんなオレの首元近くから声がした。
「わ~、勇者さまだ~。ホンモノの勇者さまだ~」
やわらかくって、わずかに高く、そして、暖かい声だ。
それに、甘く、軽く、透き通った匂い。
少し湿った高めの体温も伝わってくる。
女の子?
イメージされるのは、オレよりも少し年下、十代の少女。
それもたっぷりと愛情を注がれて真っすぐに育った女の子。
となると、この状況は……。
まだ視界がはっきりしてないけど、首にかかっている力はそれほど強くないし、身体にぶつかってきた『なにか』は驚くほど柔らかい。
もしかして…………この声の女の子に抱きつかれている!?
女性と手を握ったこともないオレは、今度は別の意味で動転した。
「うわっ、ちょっ、やめ」
言葉にならないオレの声を無視するかのように、女の子は腕の力を強め、さらに身体を密着させてきた。
「逢いたかったよ~」
ゾクリ。
耳元でささやかれたその声は鼓膜だけでなく、オレの意識まで震わせた。
脳内快感物質が出まくってる最中なんだろう。エンドルフィンとか。ドーパミンとか。
「姉上、はしたないです。それにシズク様が驚いています」
最初の声より幼く、歯切れよく、落ち着いた感じの女の子の声が少し離れたところから発せられた。
それを聞いて、オレを締めつける力は少し弱まった。でも、名残を惜しんでいるのか、身体を離しはしなかった。
そうこうするうちに、少しずつ光が弱まってきて、オレは閉じていた目をゆっくりと開いた。
「ようこそいらっしゃいました。勇者シズク様」
視界を取り戻したオレの前にいたのは、シックなドレスに身を包んだ少女だった。
見た目は十二、三歳くらいだろうか。その声の通り、年齢よりも落ち着いているように感じられた。
「私はキングダム王国第二王女イーヴァと申します。この度は、我らの願いを受け入れ、召喚に応じていただき感謝いたします」
おおっ!
お姫様だ。リアル王族だ。やんごとなきお方だ。
現代日本の一般庶民育ちのオレだ。実物を目にするのはもちろん初めて。
やっぱり、気品というか、オーラというか、なんか一般人とは違う。
しかも、お人形さんみたいに整った綺麗な顔立ち。
パーツごとのクオリティーがハンパない。
僅かに緑に色づいた銀髪のストレート・ショートボブ。
髪色に合わせた薄緑色のドレスを完璧に着こなしていて、まさにお姫様そのものだ。
でも、この子がお姫様ってことは……。
「じゃあ、この人も?」
オレの首にまとわりついている女の子に視線を向けながら、イーヴァに尋ねた。
「……はい。恥ずかしながら――」
「リスティアだよ〜。勇者さま〜」
イーヴァの言葉を遮るように、リスティアと名乗る女の子が口を挟んできた。
「――キングダム王国第一王女。私の姉上です」
「勇者さま、よろしく〜」
かしこまった妹のイーヴァとは対照的に、お姉ちゃんの方はとても王女とは思えない気安さだった。
その上、初対面なのになぜか好感度MAXなようで、爛漫な笑顔とともに、甘えるようにオレに密着している。
大きくぱっちりと開かれた吸い込まれるような瞳。
桃味がかった金色の腰まで届きそうなふわゆるロングヘアー。
オレより少し小柄で細身な身体。
その割には結構ボリューミーなふたつのパーツ――とろけるような柔らかさと心地よい弾力を兼ね揃えた凶器がギュウギュウとオレに押し付けられている。
今まで見たこともないくらいの、綺麗で可愛い女の子。
そんな子がいきなりベタ惚れとか、さすがはベリーイージーモードだな。
そう思いながら、ようやく現状が認識できたオレは周囲を見渡した。
足元には仄かに青白く光る魔法陣。
石造りで高い天井の広い空間。
両開きの重々しい扉から広間の中央を横切ってフカフカの赤絨毯が敷かれている。
天井からは金色に縁取られた真紅のタペストリーが赤絨毯を挟むようにいくつも吊られ、そこには紋章らしき精緻な意匠が金糸で描かれていた。
数段高くなった玉座と思しきところには、二つの豪華な椅子が並んでおり、壮年の男女が座っている。
王と王妃だろう。
口を挟まずに、娘達に成り行きを任せている。
その背後には巨大なステンドグラス。
中世ヨーロッパの城にある謁見の間。
まあ、実際の中世ヨーロッパの城がどんなものなのかよく知らないけど、アニメやゲームを通じて植えつけられたイメージまんまの場所――それがオレが抱いた印象だ。
外国人がイメージするニンジャやサムライみたいに、あっちの人から見たら間違いだらけで、ギャグ以外のなにものでもないかもしれないけどね。
そんな場所に大勢の人々――甲冑に身を包んだ兵士たち、立派な法衣を纏った文官たち、ローブに杖装備の魔法使いな人たち――がオレたちの動向を見守るようにじっと控えており、雰囲気作りのエキストラとしての仕事を完璧にこなしている。
とまあ、要約すると、勇者召喚のテンプレなオープニングシーンだ。
「姉上、あまりノンビリしていられません」
「あー、そだねー」
「シズク様、そういう事情ですので、早速、勇者契約の儀に移りたいのですが、今回は時間がありませんので――」
イーヴァはそう言うなり、オレの右手を掴み、懐から取り出した羊皮紙っぽいものにオレの親指を押し付けた。
「えいっ」
淡々とした声だった。
途端、羊皮紙がまばゆい光を放つ――。
「無事、契約は完了しました」
「やったー」
リスティアは嬉しそうに喜んでいるが、オレとしてはそれどころではない。
「ちょ――」
「時間がありませんので」
羊皮紙に書かれていたのは見慣れぬ文字だったから、オレには契約内容はちんぷんかんぷんだ。
そんなものを無理矢理契約とか、怖すぎるんだけど。
まあ、ベリーイージーモードだし、きっと大丈夫……なはず。
「はあ……。で、どういう契約なんだ?」
「それは追々お教えいたします。今は――時間がありませんので」
「…………」
「では早速、魔王討伐に出発致しましょう」
「わーい、しゅーっぱーーーつ」
急展開に置いてきぼりなオレを余所に、リスティアの元気な声が広間に響き渡った――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『お着替えタイムという名のセクハラでは?』
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◇◆◇◆◇◆◇
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