第十四話 ニーナとの混浴風呂は楽しいな。

 段々と冷え込んできた、とある日のこと。

 最近の俺はもっぱらニーナ家の牧場の手伝いに専念するようになっていた。

 ご近所付き合いってのもあるが、魔術訓練を禁止にされてしまった事が大きい。

 

「六歳になったら魔術学校に入学させるから、それから魔術の勉強をしなさい」


 父親にこう言われてしまったら、五歳の俺は何も言えず。 

 木刀振り回すのも危険だからと没収され、かと言って何もしてないのも暇だからと、こうしてニーナ家のドラゴン牧場の手伝いをする事にしているのだが。


「ユーティの背中のソレさ、最近ずっとくっ付いてるけど、何なの?」

「ペットのガウ君」

「ペットって……それ、魔獣なんじゃないの? サイクロなんとかだっけ?」

「一つ目だけど静かだぜ? ドラゴンと比べりゃ大人しいもんだろ」


 最近になって俺の背中に張り付くようになったガウ君。

 紫色の身体に単眼、髪色が黒く、手足も普通にある。

 小さな子供と言われたら、そうとしか見えない。

 

「ふぅん……昔、その単眼種族を何かで読んだことあるのよね」

「そうなのか? 村の端っこにいたけど」

「どの辺?」

「バンダル山の方、雑木林の入口辺り」

「結構遠くない? なんでそんな所に行ったの」

「覚えてない。それよりもジルバたちの寝床、綺麗になったぞ」


 ジルバ、カダス、ゾレント、これが三匹の赤ちゃんドラゴンの名前だ。

 命名したのはニーナと俺、それとドラゴン育成師の女の人だ。

 飛竜である母親のミミの特性を受け継いだのか、三匹のドラゴンは羽が生えている。

 まだまだ羽毛で包まれているから、一見したら子犬に羽が生えたように見えて、結構可愛い。


「じゃあ次はリンリンのトイレやるから、手伝ってよ」

「ういー。リンリンってグレートドラゴンだっけか? 巨大すぎるよな」


 尻を付けて座っているけど、それなのに見上げるぐらい大きい。

 そんな巨体が糞をするんだから、それだけで超が付くぐらい巨大だ。

 だがしかし、ドラゴンの糞には栄養素がたんまりあるとかで、これが地元農家に売れる。

 値段聞いてビックリ、父親の警護団の給金以上の金額だった。

 俺の父親はドラゴンの糞以下かって、ちょっとだけ嘆いたのは内緒だ。

 

「荷車に詰めるだけ詰め込んじゃってね」

「あいよ、しかしスゲェ臭いだな」


 スコップ持って手作業でやる仕事じゃねぇ気もするが、勇者としての鍛錬には丁度良い。

 雪かきの要領でフンフン荷車に積んでいくと、あっという間に荷車が一杯になった。


「じゃあこれ運んで……って、ガウ君だっけ? 荷車の中にい――ベフッ!」

「どうしたんだよニーナ、変な声だし――ブヘッ!」


 ガウ君、どこで覚えたのか知らんが、荷車の糞を丸めて俺達に投げて来やがった。

 元が魔獣だからか、結構素早いし力もある。

 ニーナと二人がかりで掴まえる頃には、二人して糞まみれになっちまった。

 

「お風呂出来てるから、入って行ってね」


 お腹の大きいニーナのママに言われて、二人と一匹でお風呂に入る事に。

 脱衣所で二人、糞まみれのまま固まる。

 

「は? 一緒に入る訳ないでしょ? 私達もう五歳なんだよ?」

「気にするこたねぇだろ、去年も一緒に入ってたじゃねぇか」

「そうだけど……そうだけどさ」


 恥ずかしがるから恥ずかしいんだ、ここは堂々と入ってりゃ問題ない。

 それにマジで臭い、ドラゴンの糞が鼻の穴とかに絡みついてて、一秒でも早く綺麗にしたい。

 うぼあああああああぁって感じで綺麗になって、ニーナの家の湯舟にどぶんと浸かる。


 足が延ばせて気持ち良いんだよな、ニーナの家のお風呂。

 ガウ君も一緒に入ったお風呂が気持ちいいのか、ガウガウ言いながら湯舟に浮かんでら。


 っとと、ニーナの奴も身体洗い終わって湯舟に浸かるのか。

 きちんとタオルで隠してるのとか、無駄に意識してんなぁ。残念。


「こっち見ないで」

「別に減るもんじゃねぇだろ」

「減るの」

「何が?」

「いいから減るの、こっち見るな変態!」

「へいへい……」


 最近冷え込んで来てるから、お風呂が気持ちいいや。

 鼻歌歌っちゃうね、ふんふんふーん。


「ユーティ」

「ん? そっち見てねぇぞ」

「ううん、ユーティって、本当に勇者目指してるの?」


 レミとティアにもされた質問だな。

  

「別に、勇者になる必要とか、なくない?」

「でも、勲章貰った時に言っちまったしなぁ」

「だって、冒険とか、きっと大変だよ? ユーティはこのまま私と一緒に牧場で働くぐらいが、きっと丁度いいと思うよ。それにジルバもユーティに懐いてるし、このままあの三匹が育てば、ドラゴン使いとしての道だってあると思うんだけど」


 ドラゴン使いの道か。 

 それも悪くはないかもな。


「でもよ、俺六歳になったら魔術学校に入らないといけないんだと」

「魔術学校……? なんだ、結局勇者にはならないってこと?」

「どうなるのか分からねぇけど。なんか魔術師の素質があるんだとさ」

「そうなんだ。魔術学校ってどこにあるの?」

「知らね」

「っていうか、水魔術教団じゃないんだ」

「炎と水、両方を学んだ方が良いって言われたんだ。それに水魔術教団行かされたら、甘やかされて終わりそうな気がするし」

「確かに、あそこヒルネさんの影響力凄そうだもんね」


 ケラケラと笑っていると、ニーナは湯舟から立ち上がり、一人とんっと洗い場へ。

 

「ユーティがどこにも行かないって聞いて、安心しちゃった」

「魔術学校には行くけどな」

「でも、そこってそんなに遠くなさそうだし。勇者として冒険に出るよりかは安心できるよ」


 振り返ってニーナが濡れた髪をかき上げながらニッコリした瞬間。

 一緒に入っていたガウ君が湯舟から飛び出し、ニーナのタオルをはぎ取った。


「え」

「え」

「ガウ」


 長々と浸かってたから、もうガウ君も湯舟から出たかったのかも。

 そんで、身体拭きたいからタオルを奪い取ったと、なるほど。

 

「きゃあああああああああぁ! 変態ユーティ! 見ちゃダメ! 絶対見ちゃダメだからね!」


 ガウ君の行動を分析しつつ、ニーナの裸を指の隙間から眺める。

 ちっとは成長してるんだな、なるほどねぇ。

 

「あー! コッチ見てる! 見ないでよ!」

「見てねぇって」

「指の隙間から見るな! 水魔術:金剛ダイヤモンド切断カッター!」


 ドビュンッ! って水の刃が頬を掠めた。壁に穴が空いた。


「こ、殺す気かお前!」

「見てるユーティが悪いんだ! あーん全部見られたー! もうお嫁にいけない! ママー!」


 濡れたままニーナの奴、風呂場から出て行っちまったけど。

 ……おっといけねぇ、俺のちんちんが変身を始めちまった。

 こりゃ、しばらく湯舟から出られねぇなぁ……ぶくぶくぶく。

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