第十三話 レミと仲良し♡の約束をする。

 変質者を撃退したとして、俺は勲章バッチを授与される事となった。


 授賞式の際、偉そうな男の人から「将来は何になりたいのかな?」と質問されたので、迷うことなく「勇者です」と返答すると、周囲から拍手が巻き起こり「素晴らしい!」と褒められまくる結果となった。


 だけど、褒められるだけでもなかった。

 父親から「攻撃魔術を人に向けて使ってはいけない」と、こってりと絞られたのだ。

 俺の魔術の素質は想像以上らしく、五歳児の魔術力ではないらしい。

 結果として、俺の魔術を喰らったオジサンの肛門は再起不能になったとか。知らんけど。

 

「別にいいと思うけどね、あんな奴がどうなったって」

「ティア」

「うん……私は、ユーティくんがした事は、間違ってないと思うよ」

「レミ」


 あの日以降、二人は俺に対してちょっとだけ優しくなった気がする。

 何をしても逃げる事はなくなったし、こうして両サイドに座って腕を絡めている程だ。

 スカート捲りもする必要がなくなった。顔を会わせると「今日は白だよ」と見せてくれる。

 スカート捲りの醍醐味ってそこじゃない気もするんだが、まぁいいかとガン見した。


「ねぇ……ユーティくん。一個だけ、聞いてもいいかな?」

「ん?」

「どうして、勇者になりたいの?」とレミが質問してくると、ティアも「そうよ、私もそれ聞きたかった。だって勇者になるって大変なんだよ? 冒険に行ったりとか、怖い魔物と戦ったりするんだよ? ユーティが強いのは知ってるけど、それって危なくない?」と被せ気味に質問してきた。


「んー、そうだな……」


 ここで素直に「女の子と仲良し♡がしたい」と言えたらいいんだろうけど、言ってしまうと今の状況を失いそうな気がする。場合によっては俺の望みって、変質者のオジサンと変わらないような気がしてならない。


「大きくなったら教えてやるよ」

「なによそれ、もったいぶらないで教えなさいよ」

「ダメだな、ティアには教えてやれねぇな」

「はぁ? 何よそれ……あ、雨? いけない! 洗濯物取り込まないと! レミ、行くよ!」


 残念、二人側にいてぽかぽかで気持ち良かったのに。

 ぱたたたたーとティアが駆け出したのに対して、レミはぴょんと立ち上がると、手を後ろで組んでくるりと振り返った。 


「ユーティくん」

「ん?」

「どうしてあの時、私が襲われてるって気付いたの?」

「え?」

「ユーティくん、大人の男女が何してるか、知ってるんだ?」

「そ、それは、だな」

「ユーティくんも……そういうこと、したいの?」


 しとしとな雨でレミの着ている服が肌にはりついていて、下着姿同然になっていく。

 火照った頬に普段のレミらしからなぬ妖艶さが醸し出されていて、なんか胸がドキドキした。

 

「……ふふっ、ユーティ君の、えっち♡」

「お、俺は何も知らねぇぞ!? 部屋が荒れてたからであってだな!」

「いつかしようね、またねユーティくん」


 「あと、これはお礼だよ」って俺の頬にキスをして、レミは走り去ったんだけども。

 いつかしようねって事は、女の子との仲良し♡って事か? 仲良しって事か!?


 その日の晩、父親の蔵書が何故かちょっとだけ虚しいものに感じられた。

 なぜだろう……俺が大人の階段を上がろうとしているからなのだろうか? 

 俺の願望が叶う日は、意外と近いのかもしれない。


「ああ、ユーティ!? なぜ本を床一面に!?」

「パパ」

「これはユーティが読んでいい本じゃない。今後、勝手に本を取り出したりしたら」

「ママが怒ります」


 エプロン姿のママが腰に手を当てて、ママらしからぬ憤怒の顔でそこにいた。


「……ヒ、ヒルネ」

「私よりもこんな薄っぺらい本の女の方が好きなんですね」

「い、いや、そんな事はないぞ!? ヒルネの方が何倍も、何百倍も可愛いし素敵だ!」

「じゃあ、その事を証明して下さい」

「……わ、分かった。ユーティが寝た後にな」

「一回や二回じゃ許しませんよ」

「分かった、分かったから」

「二桁は覚悟して下さいね」

「OKだ、頑張る」


 どうやら、今日は早く寝ないといけないらしい。仲良しってそんなに頑張るって事なのだろうか? ちょっと起きて見てみようかなと思ったのだけど、布団に入って気付いたら朝になり、隣で父親が干からびたシイタケみたいになっていた。一体何があったのだろう。

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