第十話 ドラゴン牧場の朝は早い。
――グギャオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッッ!!!!
ニーナの家からドラゴンの鳴き声が聞こえてくる。
毎朝三時、牧場の朝は早い。
「ふざけんな」
「なによ」
「いま三時だぞ、午後じゃない、午前三時だぞ」
「そうね」
あまりにもウルサイから一人布団を抜け出してドラゴン厩舎まで行くと、既にドラゴンたちに餌付けをしているニーナの姿があった。いつもの作業用のサロペットじゃなく薄手の寝間着姿で、一人バケツ一杯のドラゴン用の餌を手に持ち何往復もしてる。
文句の一つでも言ってやろうかと思ったけど。
ニーナ一人で頑張ってるのを見て、やめた。
「なぁ……オジサンとオバサンは、こういう仕事やらねぇの?」
「ママは今お腹に赤ちゃんいるからね。パパは街へとお仕事に行ってるから、動けるのが私しかいないのよ。本当ならドラゴン専用に人を雇うはずだったんだけど、街から村に引っ越すのに時間かかってるみたいで、まだ来れないみたいだし」
よいしょって飼い葉を敷き直すと、ようやく落ち着いたのか俺の側にきて柵に寄りかかる。
「他にも牧場には作業の人たちいるじゃん、ああいう人には任せられねぇのか?」
「ドラゴン育成は専門家じゃないとダメなんだってさ」
「ニーナだって専門家じゃないだろ」
「そうだけど、だからってこの子達を放置なんか出来ないでしょ?」
こんな巨大なドラゴンなんだ、放置したらそこら辺にいる民家を襲いそうだな。
そこら辺にいる民家、つまりはウチって事になるのか。なるほど。
腰を落ち着けたばかりなのに、もう赤ちゃんドラゴンが鳴き始めた。
「この子達もねー、本当ならドラゴンって夫婦で子供を育てるんだけど、ネグレイト気味でさ」
「ネグレイト?」
「そ、育児放棄。人間の手が加わっちゃったからなのかな。だから――」
言いながら、ニーナは巣の中の赤ちゃんドラゴンを一頭抱き上げると、そのままこっちにやってきた。大人のドラゴンは硬質化した皮膚がむき出しだけど、赤ちゃんドラゴンは羽毛に包まれていて、なんだかモフモフした感じだ。子犬って言われたら信じちゃいそうだな。
「こうやって抱っこも出来ちゃう」
「へぇ」
「本当ならこんな事したら、母親ドラゴンが何かしてくるはずなんだけどね」
見た感じ、母親ドラゴンであるミミちゃんは、トグロを巻き目を閉じたままだ。
よく見たら長いまつ毛とかあって、確かに雌っぽい。
ニーナは手の中に水を生み出し、それを赤ちゃんドラゴンへと飲ませている。
ん-ってバケツの中の肉を取ろうとしてるから、持ってやると「ありがと」と微笑んだ。
「ユーティも抱っこする?」
「いいのか?」
「いいよ、赤ちゃんだから、静かにね」
そーっと両手を伸ばしてゆっくりと抱き寄せる。
大きくて柔らかくて、もふもふしてて可愛いな。
爪とかごっついから、ここら辺は確かにドラゴンっぽい。
しばらくしたら腕の中がぽかぽかしてきて。
大きい目を閉じて、クークー寝息を立てて眠っちまった。
「結構、可愛いな」
「でしょ? 父さんがドラゴン牧場やるって言った時は、私も反対したんだけどね」
「そうなのか?」
「だって、大変なの知ってたし。ただでさえ牛とか家畜のお世話で大変なのにさ。でも、生まれてくる妹の為にも、牧場を大きくしないといけないんだって言われちゃって。じゃあ頑張るしかないよねーって、私も折れたんだよね」
にって白い歯を見せて笑顔になったニーナの顔は、もうなんかお姉ちゃんって顔をしていた。
お姉ちゃんか、俺にも弟とか妹とか出来たら、色々と考え方とか変わるのかな。
「……ん、朝か」
太陽が山の間から上って、周囲が一気に明るくなる。
眩しいくらいの日光から顔を背けると、真横にいたニーナが目に飛び込んできた。
薄着で汗だくになるまで作業をしていたニーナは、何も着てないのと同じぐらいスケスケだ。
夜の暗闇で気付かなかったけど、おっぱいからおへその方まで、全部丸見え。
「ん、どしたの?」
「いや」
「なにさ、もったいぶっちゃって」
「あと、十年後かなって」
「なにが……なに、な……っっ! アンタどこ見てんのよ!」
「どこも見てねぇよ! それよりほら次があんだろ、手伝ってやっから指示しろよ!」
真っ平で色気の『い』の字もねぇ。
でもこれがあと十年もすれば、水魔術のお姉さんたちみたいにボインになったりすんのかな。
「本当にスケベでエッチなんだから……着替えてくるから、赤ちゃんたちの巣の飼い葉、新しいのと入れて混ぜといてね」
「あいよー」
ドラゴン牧場の朝は早い。
早いし大変だしで、尊敬しちゃうね。
「俺は適当に勇者目指して、女の子と仲良し♡が出来れば、それでいいかなぁ」
適当に飼い葉を混ぜた後、朝日を見ながらぼんやりと将来を思う。
このまま牧場の跡継ぎってのだけは、勘弁願いたい所だ。
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