第六話 ちっちゃいね……。
ぴゅーぴゅー水を出せるようになった。楽しい。
相も変わらず食卓には母親の水が出るが、美味しいから飲む。
これはオシッコなの? と質問するも、母親は違うと言い張った。
よく分からんが、夜中にトイレに行く手間が省けたのは嬉しい。
怖いからな、夜のトイレは。
「炎の魔術を習いたい?」
「うん」
「ああ、そうか、ママが水魔術教えたって言ってたもんな」
水魔術をマスターベーションした俺は、次に父親へと炎の魔術をお願いした。
五歳児の可愛さ全開の瞳うるうるパパ様お願い攻撃だ、きっとパパなら教えてくれる。
ダメだったら秘密の本を母親に見せればいい、そう考えてもいた。
「でもなユーティ、炎は危ないからダメだ」
ダメだった。
無言で両親の部屋へと行き、最新本である『無情な痴情で欲情』を手に取る。
なぜか部屋の入口に父親が立っていた。
「じゃあ教えようか」
「はい」
「ユーティ、外に行こうか」
「はい」
父親に『無情な痴情で欲情』を渡すと、すんなり事が運んだ。
外は温かい、今日もいい天気だ。
「ユーティ、いま温かいって思っただろ」
「はい」
「それが火の魔術の原点だ。全身を燃え上がらせるように熱をイメージするんだ」
「はい」
「そうすると、こういう事が出来るようになる」
魔術:紅蓮の炎
父親の右手から真っ赤な炎がブレスみたいにゴオオオオオって出た。
『無情な痴情で欲情』が燃えた。
「パパ、炎は右手から出すの?」
「ああ、そうだぞ。基本右手だ。だがなユーティ、先に言った通り、全身の熱が重要なんだ」
「全身の熱」
「身体の中の熱量の操作が出来るように、まずは意識の訓練からだな」
じゃ、頑張れよ。そう言い残して父親は家の中に戻っていった。
しばらくすると母親との楽し気な声と「仲良し♡」の声が聞こえてきた。
二時間かな。
よし、とりあえず訓練だ。
全身の熱を操作する、意識を集中。
「あれ、変態人間蒸気機関にぎりっぺ野郎のユーティじゃない、今度は何を始めたの?」
ニーナか、コイツ毎回俺が外に出ると近くにいるな。
「炎の魔術の訓練」
「アンタ最近、本当に勇者目指してんのね」
「そうだよ」
「なんで急に?」
「別に、なんだっていいだろ」
「ふぅーん」
別にそのままでもいいのに。
そんな事を言いながら、ニーナの奴、近くに座りやがった。
俺がそのままだと女の子と仲良くなれない。
変態人間蒸気機関にぎりっぺ野郎なんて、仲良い男には言うはずがない。
このままじゃダメなんだ、俺は勇者にならないと。
勇者になって、女の子と『仲良し♡』をしたいんだ。
ちり……っと、胸が熱くなった。
これが父親の言っていた『熱』か。
『仲良し♡』がしたい、俺は『仲良し♡』がしたいんだ。
よし、きっと今ならちゃんと魔術が使えるはず。
右手を掲げて、手のひらから炎を!
「スーパーミラクル炎ダイレクトアターック!」
ゴウッて全身が燃え上がった。
着ている服が全部燃えた。
「あれ?」
「ぷっ、あはは、あはははは!」
「笑うな」
「人間蒸気機関から、人間ゴミ焼却炉に進化したね!」
この野郎。
左手から水魔術を出してニーナにぶち当てたら、ふざけんなってビンタされた。
下手な魔術よりも肉弾戦の方が効果がありそう。とりあえず、帰るか。
全裸のまま家路に付こうとしたら、帰り途中にレミとティアの二人と遭遇した。
「ついに堕ちる所まで堕ちたか、変態ユーティ!」
「ユーティくんの……ちっちゃい、ね」
指の隙間から覗くレミの言葉にノックアウトされた俺は、半べそかきながら『仲良し♡』の声が響き渡る家の玄関を開けたのであった。
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