第五話 水魔術は、おしっこ魔法でした。

 記憶がない。

 ここ数日間の記憶がない。

 何があったのか分からんが、ニーナから「変態人間蒸気機関にぎりっぺ野郎」と言われた。

 意味が分からん。

 

「ユー君、今日はママが魔術の先生になります」

「はい」

「ママは水魔術に関しては村一番の魔術師だったのです」

「はい」

「村の人からお水の人、水商売の人、そんな風に褒め称えられました」

「凄いです」

「そうなのです、ママは凄いのです」


 今日は母親が先生になる、そう息巻いて家の風呂場へと二人でやってきた。

 洋服を全部脱がされて、母親も全裸で目の前に座っている。

 多分、近所のおじさん連中が見たら金を払いたくなる光景なんだろう。

 俺は何とも思わんが。


「こほん、では、そんな凄いママがユー君に水魔術を教えたいと思います」

「はい」

「まずはユー君、手を伸ばして下さい」

「はい」

「それを、ママのおっぱいに当てて下さい」


 手が沈む程に柔らかい。

 うん、いつも頭に乗っけている柔らかさだ。


「どくん、どくんって、ママの胸が動いてるの、わかる?」

「わかる」

「これはね、心臓っていって、身体を流れる血液……うーんっと、血がね、なんか赤いのがね、流れてるんだけど、それを新しい……えっと、新しいのにするの」

「うん」

「そういうこと」


 ……うん?


 互いに裸でタイルの上に座ったまま、何もない時間が過ぎる。

 モォーってニーナの牛の声が聞こえてきた。平和だ。


「そういう訳だから、水魔術を使う時は左手を使うの」

「分かった」

「呪文もあるとカッコいいからね、ユー君も魔術:清楚たる由縁って言葉、使ってもいいよ」

「え、ママ、呪文ってカッコいいから使ってるの?」

「そうよ?」


 そうなのか。知らなかった。

 じゃあスーパーミラクルウルトラ水ブシャアアアとかでもいいんだ。


「スーパーミラクルウルトラ水ブシャアアア!」


 出ない。水が数滴、手汗程度にしか出ない。


「ママ、出ない」

「うーん……ユー君、ユー君は、おしっこする時にどこから出す?」

「ちんちん」

「そうね、ユー君の可愛いおちんちんから出すわよね。それを、手から出せばいいの」


 ……うん?


 理解が追い付いていないままでいると、母親はすくっと立ち上がった。

 右手を腰に、左手を下腹部に当てている。


「ママは、いまトイレに行きたいです」

「はい」

「ママのお腹には、沢山のオシッコが溜まってます」

「はい」

「では、それを左手から出します」

「え?」


 魔術:清楚たる由縁

 ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! って水が滝を横にしたみたいに出た。

 「あばばばばば」って、壁に反射して全身ずぶぬれだ。 


「出しました」

「はい」

「ママはトイレに行きたくありません」

「えー」

「じゃあユー君も、左手がちんちんだと思って、水魔術の練習頑張りましょうね」


 その日、俺の左手はちんちんになった。

 もうお嫁にいけない。

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