第三話 レミとティア。と、ニーナ。

 身体を鍛える方法が他にないか父親に聞いた所、走るのが一番だと言われた。

 魔王と戦うには素早さは大事だ、どんな攻撃も避けるしゅん……何とかが必要とか言ってた。

   

 だから村の周りを走る事にした。

 小声で「走るのはタダだからな」とか聞こえたが、多分気のせいだろう。

 木刀を手に持って走る、どうせなら戦いを想定して走った方が訓練になる。


 ぶんぶん木刀を振り回しながら走っていると、俺の前を女の子二人が歩いていた。

 木刀の風切音が女の子たちにも聞こえたのか、くるり振り返り、そして逃げた。 


「きゃー! 助けてー!」

「ユーティ君に襲われるー!」

 

 なぜか村の大人に捕縛され、お説教を喰らう羽目になった。 

 女の子たち曰く、走ってくる俺の顔が発情したゴブリンに見えたとか。  

 理不尽の極み、このままブチ切れて魔王目指そうかと思うぐらいだった。


 しかし村の大人たちは強い。

 間違いなく五歳の俺よりも強いのだから、大人しく従うしかない。

 いつかぶっ殺す、勇者になって最初にすることは、この村を壊滅する事だ。


「木刀持って走ってると、ちょっと怖いよ」

「……うん、レミも怖かった」


 何が怖かったのか先の女の子たち、レミとティアに聞くと、なるほどな意見を貰った。

 白に近い水色をした髪で右目を隠しているのがレミで、赤毛で強気なのがティアだ。


 いつも二人は一緒にいて、家の手伝いをしているのを良く見かける。

 見れば洗濯物を持っているから、今は川に洗濯しに行く途中だったのだろう。 


「話しかけて悪かったな」

「うん、もう話しかけて来ないでね」

「出来たら、ずっと……ね?」


 優しい笑みを浮かべながらスゲェことを言った二人のスカートを捲り上げて、逃げる。

 俺の走りは相当なスピードだ、村の女の子たちじゃ俺に追いつくことは出来ない。


 しかし、木刀を振り回しながら走るのは禁止だな。

 また大人達に捕まったら母親が悲しむ。

 

 結局ただ走るだけ、それだけの訓練で果たして強くなれるのか。

 多分無理だ、常日頃からスカート捲り&ダッシュしている俺を舐めないで欲しい。

 

 ……そうか、緊張感が足りないんだ。

 ただ走るだけじゃなく、そこに命のやり取りを加えればいい。

 

「ニーナ」

「なによ」


 家の近くまで走ると、牛を連れて歩くニーナを見つけた。

 今日もサロペット姿、スカートじゃない。興味なし。


「その牛って、今から放牧するんだろ?」

「そうだけど、なに」

「ちょっと蹴り入れていいか?」

「ダメに決まってるでしょ」

「なんでだよ、牛に追いかけられながら走った方が強くなれるって」

「ウチの子、乳牛だよ? そんなことしたらお乳出なくなっちゃうじゃん」

「お乳かぁ、代わりにニーナが出せばいいじゃん。女なら出るんだろ、お乳」

「……」


 半眼になったニーナに、あれ、これ俺死ぬんじゃない? ってぐらいボコボコにされた。

 おかしいなぁ、父親の隠し本には、女の人はおっぱいから乳が出るって書いてあったのに。

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