第二話 俺、勇者諦めて盗賊目指します。

 勇者になる為には何をすればいいか。

 絵本の通りだとすると旅に出て魔王を倒すらしい。

 つまりは強敵と戦う訳だ。

 強くならないといけない。


 俺の父親は兵士だ、家には剣が何本も置いてある。

 試しに一本持ち上げてみようとしたが、重くてダメだった。

 どれもこれも重くて持ち上げるだけで精一杯。


 何かないか家中を捜索した結果。

 両親の部屋のタンスの奥底に隠れていた手のひらサイズの棒を入手する事に成功した。

 重さも俺には丁度いい、ちょっと臭いけど練習用だから我慢だ。


「一、二、三、四!」


 外で素振りをしていると、道行く女の人たちから謎の視線を感じる。  

 これが勇者の力か、強い男がモテるというのは、きっと本当なんだろう。


 しばらくすると母親が巨乳を揺らしながら全力ダッシュしてきた。

 問答無用で俺から謎の棒を回収すると、代わりに木刀を俺の手の中に差し込む。


 謎の棒の方がいいと駄々をこねたが、ダメだった。

 あの棒は聖剣で、パパにしか使えないのだとか。

 致し方ない、パパは怒ると怖いからな。

 それにパパの新作『モンスター娘、無限絶頂イキ地獄』を隠されたら面倒だ。 

 まだ半分も読んでないし、あの本の為に棒は我慢するとしよう。


 木刀で素振りしていると、近所の農家の娘であるニーナが牛と共に歩いていた。

 茶髪で頭にスカーフ、緩いシャツと汚れたサロペット姿でテクテクと。

 スカートじゃないから捲れない、興味無し。

 

「見ないでよ」

「見てないし」

「急に木刀振り回して……それで女の子襲うつもり?」

「そんな訳ないだろ。俺は勇者になるんだ。そのために身体鍛えてんだよ」

「ぷっ」

「なんだよ」

「アンタ今更勇者って……そこら辺の盗賊とかになって、女の人襲ってる方がお似合いよ」


 この野郎。

 その牛の尻を叩いてる長い草でニーナの尻を叩いてやろうか。

 とか考えたけど。


 盗賊になった方が女の子を自由に出来るのか。

 パパの旧作『女盗賊なのに、全部盗まれちゃった』にもそんな展開があった気がする。


「お前天才か」

「は?」

「よし分かった、俺盗賊目指すわ」

「え?」


 勇者を一日で諦めて盗賊を目指す事にした俺。

 さっそくその事を母親に報告すると、それだけはやめなさいって怒られた。

 「一番現実味がある、想像できちゃうからヤメテ」って言われた。


 母親のことは好きだ。

 しょうがない、勇者を目指すままにしておくか。





――

不定期連載です。

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