第6章 35話 私のかわいい妹
優月は遠くに見える夏澄に、もう一度心の中で頭を下げた。
夏澄にも、飛雨たちにも、つらい思いをさせたはずだ。
優しさでできている水の精霊は、優月には想像できない思いをしただろう。
いつかは恩を返したい。
夏澄たちはもう何百年も、水の精霊の国を元にもどすために旅をしているという。
そんな彼らの儚い願いを助けることが、いつか自分にもできるだろうか。
「あっ、優月っ。ねえねえ、優月っ!」
草花がどすんと、優月の腕に抱きついてくる。
「優月の木の実、竹とんぼたちにあげていい? 栄養満点だから、竹とんぼたち、健康に育つと思うの」
「もちろん、いいよ」
優月は草花の頭を撫でた。
「ありがとっ」
草花は跳ねるように駆けていく。
そっと木の実をもぎとると、皮のままけん玉たちにつつかせた。
かすかに目が潤む。
それでも、しばらくすると、そんな感情は消えていく。残るのは、昔のような穏やかな幸せだけだ。
水の精霊たちに出会えて本当によかった。
そういえば、水の精霊と知り合うきっかけを作ったのは草花だった。
草花が夏澄たちに押しつた小毬たちを引き取らなくてはならなくて、彼らに春ヶ原に招き入れた。
草花の背後には、瞳に鮮やかなしろつめ草の野原が広がっている。
花びらが舞っていた。
愛おしい夢の世界はこれからも変わらずに在り続けるだろう。
……ありがとう、私のかわいい妹。
優月は微笑んで、草花を見つめた。
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