第6章 26話 優美に微笑んで


 風花は泉の前にもどり、そっと、優月の木の前に立った。


 優月の木を見上げる。


「ねえ、優月さん。聞こえる?」


 弱っている優月に届くか分からない。聞こえるように願いながら、風花は丁寧に話しかけた。


「草花ちゃんは今の春ヶ原を見ていないよ「優月さん。優月さんは草花ちゃんを護ったんだよ」


 風花は夏澄を呼ぼうと彼を捜す。


  そのとき、風花の言葉に応えるように、優月の木が輝きだした。光はだんだん強くなる。


 木の前に、透き通った人影のようなものが現れた。


 かすかに見えるだけだが、確かに優月だ。


 また風が吹きはじめた。

 今度の風に枯れ葉は混ざっていない。暖かい風で、青葉の香りがした。


 風は草花たちを包む。

 草花たちはゆっくりと瞼を開けた。草花は瞳をこすって起き上がる。


 彼女は近くにいた小毬たちに気づくと、ふわっと抱きついて、毛に頬をうずめた。


「ありがとう、風花さん」


 優月の姿がくっきりと現れた。


 陽の光が優月に差し込む。


 優月は貴族のようなやわらかい立ち姿でいた。暖かい光の中で、今までのことを振り切ったように、優美に微笑んでいた。

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