第6章 25話 草花の夢の世界


 風花は泉の前にもどり、そっと、優月の木の前に立った。


 優月の木を見上げる。


「ねえ、優月さん。聞こえる?」


 弱っている優月に届くか分からない。聞こえるように願いながら、風花は丁寧に話しかけた。


「草花ちゃんは今の春ヶ原を見ていないよ」


 優月の姿が目の奥をよぎり、風花の声は震えた。


 優月の木はかすかな放って、今までと変わらない。だが、なぜ優月の姿は見えないんだろう。


 もしかして、もう精霊の姿を保てないでいるんだろうか。


「優月さん。草花ちゃんの中では、春ヶ原は優しい夢の世界だよ。今までと変わらないよ」


 ……好きだったよ、草花。草花の夢をこれからも護るよ。


 また声がした。


 やがて、優月の木の霊力の光は消えていった。流れていた風も消えていく。


 優月さん……?


 風花の息はつまる。

 優月が本当に消えてしまいそうな気がした。

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