第6章 24話 優月の声

 ……草花。


 風に乗るようにして、かすかな声がした。

 はっきり聞き取れないが、きっと優月の声だ。


 ……草花、傷つけてごめん。

 もう二度と、こんなことはしない。


 優月の声は、深く深く、風花の中で響く。とても悲しい、それでも包むように草花を想う声だった。


 ……本当に本当に、優月さんは草花ちゃんが好きなんだ。想いが届かなくても。


 風花は春ヶ原をぐるっと眺めた。春ヶ原は夏澄たちの霊力で、すっかり元にもどっていた。


 目に鮮やかな、桃色の野原。それを囲む花をつけた木々。

 花びらが降り、暖かな日射しが優しく照らす。


 春ヶ原を廻る川は澄んだ水色で、ところどころ花を映し、桃色になっていた。


 動物と植物が仲良く暮らす、夢のような世界。


 春ヶ原も優月の想いも、泣きたいくらいに美しいと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る