第6章 22話 もうひとつの風

 あれ……。


 ただ、春ヶ原中を眺めていた風花は、目を凝らした。


 木から流れていく風を目で追う。かすかに流れる風は、植物を萎れさせる。


 その中で、草花たちにだけ向かっていく風があることに気がついた。その風は、しろつめ草を弱らせることはない。


 今までの優月の風とは違う。


 また、その風が草花たちに流れていく。ふわっと優しい印象で、草花たちを撫でた。


 風花は恐る恐る、水路から草花に歩み寄った。


 じっと草花たちを見つめる。


 気を失っているが、草花は微笑んでいた。

 うれしげに、すうすう寝息を立てている。

 動物たちもおなじだった。


 さっき、彼女たちは優月の風に吹かれて次々と倒れた。だから、傷つけられたのだと思っていた。

 でも、違うのかもしれない。


 草花たちはただ眠らされただけのように見える。


 また、風が吹く。


 草花の後ろにある植物が枯れて。草花は苦しげな息をする。


 だが、もうひとつの風が吹き、草花はまた微笑んだ。

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