第5章 68話 傍観者の影

 ひとつ、ふたつ、みっつ……。


  藤原の霊泉近くの大木の上に、ひとつの影があった。


  前に水の精霊の様子を窺ったときのように、影は樫の太い枝に腰掛けている。


 幹に深くもたれ、星を数えていた。


  光るものは好きだ。

 かすかな星明かりでも、心魅かれるものがある。


  影は霊泉に視線を向けた。


  水の精霊たちはもう眠ったようだ。 今日の水の精霊は、いつもにも増して隙だらけだ。


  ニ、三度、自分の霊力を放っているが、気づく様子がない。


 今朝方やって来た木の精霊に、気持ちを乱されているのだろう。

 やっと、悲しみの霊力の主が木の精霊だと気づいたらしい。


  水の精霊たちは、この自分を疑っていたこともあったようだ。


「どう思われようと構わないが」


  自分が手出しはなどするはずがない。もう随分長い間、ただの傍観者なのだ。


 たぶん、これからしばらくだってこのままだ。


  ……木の精霊の霊力は弱い。

 だから、水の精霊の状況に変化はない。


  このことに関して、報告の必要もないだろう。


  影は立ちあがる。

 だが、夜空の星に心魅かれた。


 よっつ、いつつ、むっつ、ななつ……。


  また、星を数えはじめた。

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