第5章 62話 暖かな旋律

 ゆり音は、強引に風花の手を引く。防音室まで引っ張っていった。


「なにが聴きたい? なにが聴きたい?」


 同じ言葉を繰り返す。


「ねえ、ママ。なんで急に?」

「いいから、ここにいなさい。そのほうが治りが早いわよ」


 こんなに疲れた顔しちゃってと、風花の頭を撫でる。


 風花は涙が出そうになった。

 ずっと、そうしていて欲しいような気持ちになる。


「みぞれとなぎさも、心配してるわよ」


 防音室に入ると、愛犬のみぞれとなぎさが駆け寄ってきた。

 風花がソファにすわると、二匹もぴょんと飛び乗る。


 風花の肩に前足を乗せ、じゃれついてきた。

 ふわふわのしっぽが目の前で揺れる。風花はみぞれたちを抱っこした。


「なにが聴きたい?」


「じゃあ、ヴィヴァルディの四季」


「任せてー」


 ゆり音がヴァイオリンをかまえる。


 暖かな旋律が、風のように流れはじめた。

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