第5章 62話 ヴァイオリンとピアノ

 ごろっと仰向けになって、天井を見る。白地の天井に、なぜか心がなごんだ。


 風花はそのままずっと、ふわっとした白を見つめていた。


 ふいに、とたとたと、階段を駆け上がる音がした。リズムのある足音だ。


 ドアが乱暴に開けられる。


「おっかえりなさーい。風花」

 

 ヴァイオリンを抱えたゆり音が、部屋に飛び込んできた。


「ただいま……」

 風花はうまく返事ができない。


 ゆり音は卯の花色のワンピースに、なぜかコサージュをつけていた。長いウェーブの髪を下ろしている。


 そうしていると、母というよりは、姉のように若く見える。


「おかえりなさい、風花。おかえりなさーいっ」

 ゆり音は、風花の頭を撫でる。


「ねえ、ヴァイオリンとピアノ、どっちが聴きたい?」


 唄うような声で、聞いてきた。

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