第5章 56話 ごまかし

「それは、本当なんですか……?」


 優月の声がした。かすかな、震えるような声だ。


「本当に、春ヶ原を傷つけた風と同じなのですか? そんなはずありませんよね」


 いう彼に、夏澄がぱっと顔をあげた。


「そ、そうだよ。優月。風は……」


 いいかけた夏澄の前に飛雨が立つ。問うような瞳をした。


「そうだよね。ごめん……」


 ごまかしはよくないよねと、夏澄がかすれた声でいう。 夏澄の瞳がかすかに潤む。彼はゆっくりと視線を落とした。


「ごまかしとは、どういう意味ですか?」


 優月は夏澄たちを順番に見る。


 風花は返事ができない。 夏澄たちも、うつむいたまま、なにも応えなかった。


 優月は瞳をみはって首を振る。


「うそです。私は春ヶ原を愛しているんです。そんなはずありません」


 いつもは姿勢を崩さない優月が、背中をまるめてうつむく。


 落とした肩が、ゆらっと倒れそうに揺れた。


 優月の言葉が胸の奥に刺さってくる。一瞬、風花の意識は薄れた。

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