第5章 51話 悲しい音

「この子は風に触れても、夏澄さんたちの霊力でよみがえるでしょう。それでも枯れるところは見たくないんです。草花を思い出しますから」


「草花ちゃんは、春ヶ原で風を浴びたんですか?」


「風のことではないんです。草花はいつも体を弱らせるんですよ。動物に葉を与えすぎて、本当のしろつめ草が枯れかかるので」


 優月の瞳に影がよぎる。深い闇の色を感じた。


「夢のような世界を望みましたが、簡単にはいきませんよね」


 風花は顔を上げ、振り返った。

 耳を澄ます。


 優月の言葉が終わったとき、風が勢いを増したようだったからだ。


 悲しい音だった。優月の悲しい瞳と似ている気がした。


「簡単にはいかないって?」


 詳しく訊こうとしたが、優月は答えず、広場の中央の風を見つめた。


「実体のない枯れ葉の風……。なぜ、ここに現れたんでしょう」


 彼はニ、三歩、歩を進め、空を見上げる。

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