第5章 50話 しろつめ草

 その優月はふいにスーフィアから離れ、走り出した。


 近くの木の根本にかがみ込む。

 なにかに覆いかぶさって、護るようにした。


 幾すじもの風が優月に向かっていくのが見えた。優月の背後からで、彼は気づいていない。


 風花は駆け寄り、優月に手を伸ばす。


 彼の腕を引くが、彼は動かない。 優月は手でなにかを覆った。


 しろつめ草だった。


 風が近づいてくる。 だが風は、ぎりぎりのところで、優月の脇をすり抜けていった。


 風花は息をつく。 また優月がと、心が潰れそうだった。 でも、また同じことになるかもしれない。


「優月さんっ、早くスーフィアさんのところに」


「申し訳ありません、風花さん。この子を護りたくて」


「しろつめ草……」


 優月の足元に咲いていたのは、まだ小さな花のしろつめ草だった。


 優月は、悲しそうにしろつめ草を見つめていた。悲しいが、愛しみを感じるとても優しい瞳だ。

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